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「足利事件」の真犯人は野放し状態。隠蔽された未解決事件「北関東連続幼女誘拐殺人事件」を知っていますか

今年一番、いや、この3年くらいで読んだ本のなかで、もっとも印象的でした。

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知られざる「北関東連続幼女誘拐殺人事件」

まずは著者の清水さんのツイート。「桶川ストーカー殺人事件―遺言」で知られる、日本屈指のノンフィクションライターです(「桶川〜」も日本史に残るレベルの名著なので、未読の方はぜひ)。

ぼく、この事件について全然知らなかったんです。お恥ずかしながら…。でも、知らない人の方が多いんじゃないかと思いまして、本文を引用しながら、ここで概要をまとめてみようと思います。ネタバレになるのでご注意ください。ネタバレだろうがなんだろうが、圧倒的に面白い作品なので、あんまり心配は要りません。

事件の概要

その名の通り、連続で5人の幼女が誘拐され、殺される/行方不明になるという、信じられない事件です。え?そんな事件あったの?という感じだと思いますが、もちろん実話です。

  • 七九年 栃木県足利市 福島万弥ちゃん  五歳 殺害
  • 八四年 栃木県足利市 長谷部有美ちゃん 五歳 殺害
  • 八七年 群馬県尾島町 大沢朋子ちゃん  八歳 殺害
  • 九〇年 栃木県足利市 松田真実ちゃん  四歳 殺害(*通称「足利事件」)
  • 九六年 群馬県太田市 横山ゆかりちゃん 四歳 行方不明

これらの事件は、長期(1979〜1996年)にわたって行われた一連の犯罪だとみなされています。そして、いずれの事件についても、犯人逮捕に至っていません。まさに「殺人犯はそこにいる」んです。この近辺に住まわれている方は、けっこうリアルに怖い思いをしているんじゃないかと思います…。清水さんもツイートで警鐘を発していますね。

この大事件、なんで知られてないの?

犯罪史に残るレベルの大事件、しかも犯人未逮捕状態。なんでこの事件、知られてないんでしょう?

これが実に暗澹たる話が隠れておりまして…本書のタイトルは「“隠蔽された”北関東連続幼女誘拐殺人事件」。そう、この事件は国家権力によって「隠蔽」されていると、清水氏は著書で告発しているんです。

なんでまた隠蔽しちゃってるのか?…ここら辺の経緯は、けっこう複雑です。

ひとつには、最近冤罪と判明した「足利事件」が関係しています。今でこそ「足利事件」は無実だったと知られていますが、数年前までは、「絶対的なDNA鑑定と自供によって真犯人が判明している事件」だったわけです。

「足利事件」が「解決済み」だとすると、「北関東”連続”幼女誘拐殺人事件」という線は自然と消えてしまうんです。

私が立てた(*連続事件なのではないか?という)仮説は、実を言えば致命的な欠陥を抱えていた。(略)すなわち、事件のうち一件はすでに「犯人」が逮捕され、「解決済み」なのである。(略)つまり、事件の連続性は断たれていたのである。

(略)当初は、足利市内で起きた三件の事件、「真実ちゃん事件」と「福島万弥ちゃん事件」、「長谷部有美ちゃん事件」については「連続事件」と認識されていた。実際、菅家さんの取り調べもその方針で厳しく行われた。だが、「真実ちゃん事件」以外の二件は不起訴という曖昧な結末だった。

(略)ただ、私にしてみれば、どうにも違和感を覚えずにはいられないのだ。ではなぜ「連続事件解決」後に太田市で「横山ゆかりちゃん事件」が起きているのか?連続事件犯(*菅家さん)は獄中にいるはずにもかかわらず。私が欠陥に気づきつつ、調査を続けた理由はそこにあった。

そう、問題は「足利事件」なんです。

足利事件が冤罪!事態は急転

しかし!ご存知の通り、足利事件で犯人とされた菅家さんは、無実だったわけです。ここに来て「事件の連続性」が浮かび上がることになります。話をかなりすっ飛ばしますが、著者と事件関係者のみなさんの尋常ではない努力によって、当時の菅首相が事件について言及するまでに至ります(ぜひ本書で、この血のにじむような仕事に触れてみてください…)。

そして、ついには総理大臣までが答弁した。菅直人氏だ。

「足利事件は四歳の女の子が殺害、遺棄されたという大変痛ましい事件です。また犯人ではない菅家さんが、長期間にわたって刑に服すという冤罪事件でもあります。近隣で同じような事件が五件もあるという指摘もありますので、同種類の事件を防ぐという意味からも、しっかり対応することが警察等においても必要ではないかと、感じたところであります」

おぉ。総理がここまで言ったぞ。

国家公安委員長があそこまで言ったぞ。

検察、警察庁、さあ、どうする。

長年見過ごされていた「連続殺人事件」が、2011年に入って、ようやく動き出したのです。

真犯人と思われる「ルパン」の身元は分かっている

さらにさらに、清水氏が圧倒的なのは、真犯人と思われる男、通称「ルパン」に接触し、そのDNA鑑定までやってのこけているんです。ここは本書の白眉です。ページをめくる手が止まりません。

晩秋の北関東はすでに気温も相当に低かった。私は「ルパン」の家の近くに立って帰宅を待っていた。静寂に包まれた闇が広がる住宅街。吐く息も白い。

うっすらと霧が流れる中、やがて小柄なシルエットがすっと玄関に消えるのが見えた。私は小走りでその家に向かった。

薄暗い街灯の下に現れたのは、写真よりは老けてはいたが、やはりどこかルパン三世に似た中年男だった。

名乗った上で、過去の事件を取材している記者であることを伝える。

一八年前の事件について伺いたい」そう言うと、突然の訪問からか男は若干の狼狽を見せた。

菅家さんが収監されているとはいえ、男が真犯人なら逃亡の恐れもある。取材は迂遠なやりとりで行なうしかなかったが、まずは九〇年五月一二日、「足利事件」当日のことを男にぶつけてみた。

「あなたはあの日、足利にいましたよね」

「……あまり覚えていないです」

男は曖昧な返事を繰り返した。だが、実を言えば、私はすでに事実をつかんだ上で当てている。闇の中の禅問答のようなやりとり。同じ質問を重ねていくにつれ、男の回答はブレていく。男はついに、事件当日、足利にいたことを認めた。

しかもその場所とは事件の現場だ。殺害された松田真実ちゃんが行方不明になったパチンコ店である。それだけではない。

「あまりよく覚えていない」と言っていた男が、実は真実ちゃんと会ったことがあり、会話まで交わしていたことを認めたのだ。

「五、六歳の女の子だね」

元々こちらには捜査権などない手探りの取材だ。事件への関与について直接的に問うことはできない。遠回しに聞くと、男の血液型はやはりB型。

そして、独自で行ったDNA鑑定もドンピシャ。

「いやー、結果が出たそうです。完全一致だと。ドンピシャだと。同一人物ですよ。これは大変なことになりますよ……」

今度は「不」のない完全一致――。携帯電話を握りしめたまま、私は深い安堵の息をついた。やっぱりそうだったか……。私が追い続けてきた「ルパン」と、「足利事件」の真犯人のDNA型が一致した。 高精度のSTR法によって、男だけが持つ「Y染色体」部位はもちろん、男女のどちらもが持つ「常染色体」まで、その全てが「ルパン」と完全一致したのだ。

そして、MCT118法で言えば、「ルパン」はあの「18‐24」型だったのである。  この鑑定方法による全ての型の合致確率は、計算上は一〇〇兆人に一人。地球の人口は約七〇億人。

当局はこの事実を受けて、あらためて捜査を開始。ついに連続殺人事件の真実が明らかになる!

…かとおもいきや!事件は闇に葬られる

ここら辺は恐ろしすぎるんですが、ここまでわかっているのに、この事件はまさに「隠蔽」されている状態なんです。

五人の少女が姿を消したというのに、この国の司法は無実の男性を一七年半も獄中に投じ、真犯人を野放しにしたのだ。

報道で疑念を呈した。獄中に投じられた菅家さん自身が、被害者家族が、解決を訴えた。何人もの国会議員が問題を糺した。国家公安委員長が捜査すると言った。総理大臣が指示した。犯人のDNA型は何度でも鑑定すればよい。時効の壁など打ち破れる。そのことはすでに示した。

にもかかわらず、事件は闇に消えようとしている。

なぜか?その信じがたい理由については本書をじっくり読んでいただきたいところですが、ざっくり言うと、「ルパン」を逮捕してしまうと、「科学警察研究所(科警研)」が行った重大な鑑定が誤っていた可能性がある、という論理的帰結をもたらしてしまうのです。

今思えば、この事件が葬られる当然の理由があったのだ。

「18‐24」である「ルパン」を逮捕してしまえば、科警研の誤鑑定が確定する。それは、死刑が執行された「飯塚事件」にも重大な影響を与えることになるだろう。そんな「爆弾」を抱えこんでまで「ルパン」を逮捕しようと決断する人間が、霞ヶ関にいなかったのだ。

かくして、「北関東連続幼女誘拐殺人事件」は「爆弾」と共に葬られようとしている。

そう、特に影響が大きいのは、「足利事件」と同様のDNA鑑定を実施し犯人を逮捕、そして死刑がすでに執行された「飯塚事件」です。もしも、この事件が冤罪だとしたら、「無実の人間を死刑にしてしまった」という……。日本社会を揺るがす、まさに爆弾、パンドラの匣です。

あまつさえ、飯塚事件においては、鑑定書が改ざんされている可能性があるというのです。

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弁護団(徳田靖之団長)は、2012年10月に記者会見を開き、犯人のものとされるDNA型の写真のネガフィルムを鑑定したところ、ネガの周辺部分が写真では切り取られており、その切り取られた部分から第三者のDNA型も確認された旨、及び、そのような切り取りをしたこと等を根拠に改竄捏造の可能性がある旨を主張した

飯塚事件 – Wikipedia

「飯塚事件」の真実はひとまず置いておいても(いや、置いておいちゃダメなんですが…)、連続殺人事件の犯人が野放しになっているというのは、最優先で対処すべき話でしょう。捜査の進展を切に願います。

最後に、著者の印象的な言葉を。

何度も何度も報じたぞ。

ルパンよ、お前に遺族のあの慟哭は届いたか。

お前がどこのどいつか、残念だが今はまだ書けない。  

だが、お前の存在だけはここに書き残しておくから。

いいか、逃げきれるなどと思うなよ。

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歴史に残る名著です

というわけで「これぞノンフィクション!」というすばらしい作品です。多くの人が手に取れば手に取るほど、事件は解決に近づいていくとも思います。ぜひ。

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