マイケル・サンデルの新刊がかなり面白いです。ページをめくるのが止まらない知的エンターテイメントという感じ。



気になったセンテンスをメモったのでご共有です。




第1章:行列に割り込む



・手荷物検査の待ち時間を短縮できるオプションが約5ドルで販売されている。手荷物検査は国防に関わる問題であり、売りに出されるものではないという批判もある。

・ユニバーサル・スタジオなどのテーマパークでも、通常料金の2倍を払えば行列に割り込む権利を購入できる。

・米国では、ラッシュアワー時に10ドルを払えば、より速く走れる車線を走行できる。裕福であることの利点が増し、貧しい人は追いやられてしまう、という批判がある。

・セントラルパークで行われる無料のシェイクスピア劇のチケットを、代わりに並んで入手してくれる「行列屋」の存在。公聴会、最高裁判所の傍聴席を買うビジネスも。このビジネスに関わる人は、「分業」の名の下、正当化を試みている。

・医者の予約券を転売するダフ屋も。高い料金を払えば「いつでも」診てもらえるドクタービジネスも存在。医療を受けるための行列に裕福な人が割り込めるシステム。

「先着順」の倫理が「安かろう悪かろう」に取って代わられつつある。非市場的規範にしたがっていた生活の領域に、お金と市場が入り込んできている。

・不公正と腐敗。議会の席を課金することは、単に富めるものが有利になるという不公正さを超えて、一種の「腐敗」だということでもある。腐敗とは、ある対象を評価するのに相応しい方法よりも低級な方法で扱うこと。





本書のコアな問題提起がここ。市場原理が、これまで市場でやり取りされてこなかった領域にまで浸食している、という指摘です。




第2章:インセンティブ



・薬物中毒の母親から生まれた子どもの一部は、生まれた時から中毒状態で、かつ虐待・育児放棄の対象になりやすい。この問題を解決するために、<予防プロジェクト>という慈善団体は、薬物中毒の女性が不妊治療を受けると300ドルの現金を与えるという取組みを行っている。3000人の女性がこの申し出に応じてきた。

・成績不信の学生を勉学に向かわせるため、高得点を取ると金銭を支払う学校がある。効果はまちまち。お金を与えることが、「高い成績を取ることはクールだ」というカルチャーを生み出した場合は、良い効果を与えている。

・GEは、社員に対して禁煙すると報奨金を与える仕組みを導入している。セーフウェイは、健康な社員の保険料を安く設定している。米公企業の80%が、健康維持プログラムの参加に金銭的インセンティブを支払っている。

・イスラエルの保健所では、親が子どもを迎えにくる時間が遅れた場合は、罰金を科すことにした。しかし、罰金制度によって遅刻する親は一層増えた。親はそれを「罰金」ではなく「遅延料金」と捉えたから。さらに、以前と同様の制度に戻しても、遅刻は前の水準に戻らなかった。

・「絶滅危惧種のクロサイを殺せる」権利がハンター向けに販売されている。このインセンティブにより、牧場主はクロサイを繁殖させ、密猟者から守るようになる。結果は良好で、クロサイの頭数は回復している。

・「インセンティバイズ」という言葉が使われる頻度は高まっている。大統領の談話でも登場。オバマ大統領は、三年間で29回この言葉を使った。

金銭的インセンティブを導入する際には、道徳的な評価を下す必要がある。お金が蝕み、締め出す姿勢や規範の道徳的重要性は何だろうか。活動の性質が変わってしまうだろうか。





こちらも非常に面白い論考。あらゆるものに金銭的インセンティブが導入されている実感は確かにあります。ウェブ業界だとゲーミフィケーションはその一種ですよね(金銭的なものはあくまで一部ですが)。




第3章:いかにして市場は道徳を閉め出すか



「お金で買えないもの(ノーベル賞や友人)」と「お金で買えるが、まず間違いなくそうすべきではないもの(例えば腎臓や子ども)」の二種類がある。前者は金銭が絡むことで善が台無しになるが、後者の場合は、善は売られても無くなりはしないが、結果としてほぼ確実に堕落・腐敗・減少する。

中国には謝罪を代行するビジネスがある。買われた謝罪は本人による謝罪と同じ働きはしないかもしれない。ケースバイケースではあるが、その場合は「謝罪は」お金で買えないものといえる。

・結婚の祝辞の文面の作成を代行するビジネスも。149ドルを払うと特注の挨拶を専門家が作ってくれる。祝辞は友情の表現であり、お金で買ってしまうと、性格が変わり、価値が損なわれてしまう。

・贈り物の経済的非効率性。欲しくないものを貰ってしまう時がある。「アメリカでは年間650億ドルがクリスマスプレゼントに使われるが、それによって得られる満足感は、自分でお金を使った場合寄り130億ドルも少ない」という研究もある。

・進む贈り物の現金化。いまやギフトカードはクリスマスプレゼントでもっともも人気が高い。

・スイスで行われた小さな村の住民投票。村の中に核廃棄物処理場を作るか否か。51%の住民が受け入れると回答。補償金を支払うという前提を付け加えたところ、賛成は減り、25%になった。金銭は処理場の受け入れに賛成した人々の気持ちを害した。「賄賂に動かされたりはしない」というモチベーションが働いた結果。

金銭的インセンティブによって、市民としての義務感が締め出されてしまう。かえって高く付いてしまう。公共心といった社会規範はとてもお買い得。お金を払うことによって、腐敗も招く。

・現金による補償は反感を買うが、現物による補償は歓迎されやすい。処理場を作る代わりに、学校や図書館を改築するなど。公共的な損害の補償には、公共財のほうがふさわしい。


こちらもエキサイティング。ギフトカードの話はかなり面白いジョークが載っています。プレゼントとして電子マネーを送るのが普通になる時代はそう遠くないかも。




第4章:生と死を扱う市場



・米国では従業員に生命保険を掛け、亡くなった場合の保険金を「会社が」受け取っている会社がある。この種の保険には、従業員をモノとみなし、生きているよりも死んだ方が価値があるという条件を与える。

・生命保険買い取り産業(バイアティカル)。エイズ患者を始め、末期疾患と診断された人たちの製麺保険の買い取り市場。余命一年の病人が、自分の保険を売り、生前に大金を手にし、死後は買い取り人が保険金を受け取る、という仕組み。患者が早く死ねば死ぬほど儲かる。投資家は相手が早く死ぬよう願うようになる。

・生命保険の歴史。道徳的な正当性に掛けるため、ほとんどの国で19世紀の半ばから末になるまで、生命保険は発達しなかった。

・死の賭けがあるまじき行為であるならば、その理由は、非人間的な態度にある。

・ペンタゴンのある部局は「テロの先物市場」を提案した。市場の持つ高い予測機能を、テロの予測にも使うという構想。トレーダーは次回のテロ攻撃や、独裁者の死などをサンプルに挙げた。多くの批判に遭い、実現はしなかった。


人の死を商品として扱う、というテーマを深堀した章。非常にエキサイティングです。





第5章「命名権」も面白いですが、全部載せると良くないので割愛です。僕の読書メモはかなり内容すっ飛ばしているので、ぜひ書籍で触れてみてください。様々な問いを投げかけられる良著です。




最近話題の「評価経済」の文脈にも通じるかもしれません。人々が金を介在しない価値交換を模索するのは、「商品化」に対するアンチテーゼなのかも、的な。「それをお金で買いますか?」という問いをもとに、考察を深めたいところ。










ベストセラー本も未読の方はぜひ。Amazonで送料込み600円くらいで買えます。