リーン・スタートアップ―ムダのない起業プロセスでイノベーションを生みだす






献本頂いたので一足早く読了。原著だと理解しにくかったところもかなり分かりやすくまとまっていました。

読書メモをご共有。これホント、新規事業に関わる方は絶対読んでおいた方が良いです。




*講演の翻訳資料が上がってました。こちらもぜひ(Publickeyさんの講演記録)。






リーン・スタートアップとは?





「スタートアップ」とは、とてつもなく不確実な状態で新しい製品やサービスを作り出さなければならない人的組織である。会社のサイズも業界も、セクターも関係はない。不確実な状態で新規事業を生み出そうとするものは、すべてアントレプレナー(起業家)だ。

・リーン・スタートアップでは、様々な仮説にもとづいて複雑な計画を立てるのではなく「構築—計測—学習」というフィードバックループをハンドルとして継続的に調整を行う。

・ベンチャー企業に限らず、大企業、政府機関、NPO/NGOでの実践例もある。

・リーン・スタートアップの本質を分かりやすく表現すれば「地図を捨ててコンパスを頼りに進め」ということ(伊藤譲一氏)

・「やってはいけないことを素晴らしい効率で行うことほど無駄なことは無い(ドラッカー)」

・世界はどんどんスピードアップしている。古いアプローチでは対応しきれなくなった。もっと頑張れと労働者に言うだけではだめだ。今の問題自体、まちがったことを頑張りすぎるのが原因なのだから。



伊藤譲一さんの「地図ではなくコンパス」はとても分かりやすいです。先行きがまったく見えない道を進む上で、事前に計画を立てることは不可能、という前提が「リーン・スタートアップ」の背景にあります。





検証による学び(validated learning)





・新規事業においては、顧客が使いたがらない製品・サービスに多大な時間とコストを掛けてしまう、という罠がある。

・全ての努力が価値を生み出しているわけではない。我々の努力のうち、価値を生み出しているのはどの部分で、無駄なのはどの部分なのか。リーン・スタートアップにおいて「価値」とは、顧客にとってのメリットを提供するものを指し、それ以外はすべて無駄だと考える。

・不確実性を歩む以上、検証は不可欠。顧客の望みを学ぶためにどうしても必要な学び(検証)を「検証による学び」と呼ぶことにした。

・実験を通して「価値仮説(顧客が本当に価値を感じてくれるか)」と「成長仮説(新しい顧客が製品やサービスをどう受け止めるか。推奨クチコミの有無などで判断)」を検証する。


高いコストを掛けて作ったソリューションが、市場に出してみたらまったく受けなかった…なんて事態は皆さんもどこかで目にしたことがあると思います。「検証による学び」はこの無駄を避けるためのものです。

書中ではいくつかの事例をもって、リーンなアプローチでの仮説検証が詳述されています。validated learningは、いわくシリコンバレーでは一般用語になっているとか。リーン・スタートアップのコアコンセプトと言えるでしょう。




MVP(実用最小限の製品:minimum viable product)






・仮説の検証が済んだら、できるだけ早くMVP(実用最小限の製品)を作る。MVPの開発を通して「構築―計測―学習(Build-Measure-Learn)」のプロセスを回していく。

・グルーポンは、はじめはブログだった。手作りのPDFでクーポンを販売し、電子メールで送った。一日500枚ほどのクーポンを手作業で発送していた。

・製品完成前、Dropboxは投資家受けが悪かった。競合製品はどれもいまいちで、Dropboxの売りである体験の素晴らしさも、実際に製品を完成させてからではないと体感できない。そこでDropboxは将来の製品の動作ビデオを作り「開発中の製品を顧客が欲しがる」という仮説の裏付けを行った。

・Food on the Table、Aardvaakでは「コンシェルジュ型MVP」の手法が取られた。実際のデジタル製品を作る前に、アナログな手法でソリューションを作り、小規模な顧客を対象にサービスを提供し、仮説を検証する。

・ソーシャル検索サービスAardvaakは、初期のプロダクトでは影で人間が処理をし、顧客に理想の体験を提供していた。




ここはとてもエキサイティングな箇所。特に製品を作る前にアナログな手法で仮説検証する「コンシェルジュ型MVP」の話は目から鱗です。Food on the Tableの事例はかなり衝撃的なのでぜひ書籍で触れてみてください。






革新会計(innovation accounting)と「虚栄の評価基準」





スタートアップは不確実性が高すぎて、精度の良い予測や目標が立てられず、一般的な管理会計では評価できない。

・ユーザー数が伸びているからといって、必ずしも成功の道を辿っているわけではない。スタートアップの評価には「コホート分析」を用いることが望ましい。

・例えば、登録率、アクティベーション率、定着率、紹介率、課金率などを計測する(絶対数ではなく)。アクティベーション率や課金率が改善していなければ、ユーザー数が伸びていても成長しているとは言えないケースがある。この場合のユーザー数は「虚栄の評価基準」。

・革新会計によって評価した結果、成長の様子が見えない場合は「ピボット(方針転換)」する。ピボットには様々なやり方がある。顧客セグメントを変える(B2CからB2C)、ターゲットニーズを絞る・広げる、チャネルを変えるなど。




こちらも「リーン・スタートアップ」の白眉。絶対数ではなく、アクショナブルな指標を率でみる「コホート分析」を用いて、ピボットの必要性を判断する、というのは確実に抑えておきたいアプローチです。




成長のエンジン(engine of growth)





・「過去の顧客の行動が新しい顧客を呼び込む」、「持続的な成長」を追求するべき。単発の広告やメディア露出は、長期的な成長を支えられない。

・粘着型成長エンジン:顧客の離反率や解約率に注目する。新規顧客の獲得速度が、解約速度を上回れば成長する。あるスタートアップでは、定着率が低く、新規顧客増加率も芳しくなかったために、成長率は0.02%と出た。

・ウイルス型成長エンジン:クチコミによる成長とは異なる。ウイルス型成長を示す製品は、その製品を顧客が普通に使うだけで人から人へと認知が広まる。メールフッターに「あなたもHotmailを使ってみませんか」と挿入したHotmailが好例。

・支出型成長エンジン:顧客獲得単価と、顧客の生涯価値を評価する。顧客あたりの売上を向上させるか、新規顧客獲得コストを下げることで、事業を成長させることができる。



「粘着型成長エンジン」の話は面白いです。確かに定着率が悪いがために、新規顧客は獲得できていてもサービスが伸びていない、という事例は頻繁に目にします。




本書でエリック・リース氏も述べている通り、スティーブ・ブランク氏の「アントレプレナーの教科書」をより整理して、発展・洗練させたような印象を抱きます。リーン・スタートアップもまた「アントレプレナーの教科書」と言えるでしょう。




また、著者は「リーン・スタートアップ」はあまりにもパワフルなコンセプトのため、「狂信的な狭義や硬直化したイデオロギーにならないよう注意が必要だ」と語っています。

僕は本記事でキーワードを切り出しましたが、これは「リーン・スタートアップ」の正しい理解を妨げる可能性があります。

ゆえに、あくまで僕が切り出したのはリーン・スタートアップの一部だと捉えて、詳しくは本書をじっくり読み解き、実践をして頂ければ、と思います。かなり読み応えのある一冊です。




本書が邦訳されたことで、大げさではなく、日本のビジネスシーンにおける「無駄」は減っていくと考えます。正しく広がれば、日本人の働き方すら変えてしまうインパクトがあるでしょう。邦訳に関わったスタッフの方々、出版元の日経BPさんの素晴らしい仕事に勝手に拍手。




リーン・スタートアップ―ムダのない起業プロセスでイノベーションを生みだす





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