知られざるレッドブル社と、その創業者ディートリッヒ・マテシッツに迫った骨太なノンフィクション・ビジネス書「レッドブルはなぜ世界で52億本も売れるのか」がたいへん面白かったです。すっかり日本でも定着したレッドブルですが、そのプロフィールは意外な事実に溢れていました。




「リポビタンD」がアイデアのきっかけ



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まず驚くのは、レッドブルの起源はリポビタンDにあったという話。ディートリッヒ・マテシッツはもともとユニリーバ社員で、出張中にたまたま大正製薬とリポビタンDの存在を知ったとのこと。

1982年、ハミガキ粉、せっけん、そしてシャンプーのための出張が、ディートリッヒ・マテシッツの人生と世界のドリンク市場を根底から覆す旅となった。それは蒸し暑いある午後の日、香港のエレガントなホテル、マンダリン・オリエンタルのバーでのことであった。

ディートリッヒ・マテシッツはほかの出張客と談笑していた。冗談を飛ばし、笑いあいながら、雑誌「ニューズウィーク」をアパラパラとめくっていた。このとき、ある記事が彼らの関心をひいた。

その記事には日本の高額納税者リストが掲載されていた。一同がこの記事を話のネタとして楽しんでいるなか、マテシッツだけは真剣だった。

彼は、一位がソニーやトヨタのようなグローバル企業の経営者ではなく、彼が聞いたこともない企業、大正製薬の経営者であることに気が付いたのである。この企業はリポビタンDという名の飲料を製造していると紹介されていた。






元々はタイのエナジードリンク



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レッドブルとクラティンデーンより)





1982年にリポビタンDと出会い、そののち、彼はP&Gに在籍しながら市場を熱心に研究します。1984年、彼はタイへの出張で見つけたエナジードリンク「クラティンデーン(赤い雄牛)」に惚れ込み、ライセンスを獲得します。

(クラティンデーンブランドを保有する)ユーウィッタヤー一族とともに50万ドルずつを出資して、レッドブル・トレーディング社を設立した。(中略)マテシッツは1985年、高給が保証されていたユニリーバを退職し、ついに独立の夢を果たすことになった。


ちなみに「クラティンデーン」は現在もタイで発売中で、こちらは1本30円ほど。味もまったく違い、東南アジアっぽい甘ったるさが魅力だとか。こちらのブログが詳しいです。






オーストリアの企業




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レッドブルは創業者の生まれ故郷でもある「オーストリア」の企業である、ということもあまり知られていません。面白いのは、当初はドイツで起業しようとしたけれど、お役人の許可が降りず、オーストリア企業になったという話。

当時マテシッツはドイツに住んでいた。そのため、ドイツレッドブル・トレーディング社の本拠としてヘッセン州のヴィースバーデンが選ばれた。しかし、彼の第二の故郷は若い経営者に対して冷たかった。

(中略)マテシッツはまず。新しい種類の嗜好品を販売する許可をヨーロッパ中で獲得する必要があった。しかし、ドイツの役所は販売許可の申請がまるで不道徳な申し出であるかのように嫌がった、とマテシッツは後になってしばしば怒りをあらわに語っている。






工場は持たない「ファブレス」企業




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(フシュル・アム・ゼーのレッドブル本社)




レッドブル社は工場を持たない「ファブレス」企業でもあります。

現在、年間40億本以上が売れている。だが、フシュル・アム・ゼーの本社周辺に二匹のブルが向かい合うロゴマークを掲げた工場を探しても、見つけることはできない。レッドブルには、工場も倉庫も存在していないのだ!

それどころか、ドリンク発送のためのトラックすら所有していない。数多くの運送業者がこの任を担っている。大企業の大半は自社のマーケティングと広報活動を他社に委ね、専門家やペテン師に大枚をはたいているが、レッドブルはまったく逆の道を選んだ。生産と流通は他社に任せ、自社は販売と宣伝だけに専念している。


本書が執筆された段階で、生産は現地オーストリアの「ラウフ社」が独占して行っています。

マテシッツはラウフ社従業員の信頼性と生産性を高く評価し、フォアアールベルク州の「すばらしい水質」に惚れ込んでいる。数十億本もの缶ドリンクを、世界中に輸出するようになった今でも、レッドブル創業者は生産拠点の移転をまったく考えようとしない。





コカイン入り!幻のレッドブル・コーラ




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2008年の春、マテシッツ帝国はオーストリア、ドイツ、スイスをはじめとする西ヨーロッパの11カ国、ならびにロシア、そしてアメリカの一部において独自のコーラ飲料を市場に投入した。(中略)コカの葉とコーラナッツのエキスが実際に使用されている唯一のコーラ飲料だということだ。しかしこれが逆に問題となり、2009年5月、ドイツ・ヘッセン州の健康保険省はレッドブル・コーラの販売を禁止した。微量のコカイン成分が検出されたからだ。


ガジェット通信にレビューがありますね(コカイン入りで話題になったコーラ味の『レッドブル』を飲んでみた! – ガジェット通信)。なお、コカイン成分はごくごく微量なので、健康上の問題は基本的にないそうです。




スポーツマーケティングに注力している




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レッドブル社は売上の1/3をマーケティングに費やし、そのうち半分をスポーツに費やしているとのこと。

マーケティング費用のおよそ半分は、ヒマラヤマラソン、英仏海峡上のスカイダイビング、アマゾン川でのサーフィン、あるいは鉱山内でのマウンテンバイクレースといった、特殊なスポーツイベントに費やしている。これらのイベントは、その開催地の性格から観客数こそさほど多くはないが、大きな話題となることがあり、そのため数多くのメディアが報道し、世間の注目が集まる。


イベントの開催だけでなく、サッカークラブ、F1チーム、アイスホッケーチームなどを買収・スポンサードしています。日本のウェブサイトを見ても、スポーツに力を入れていることがよくわかりますね。




テレビ会社を持っている





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ライブドアを彷彿とさせますが、彼らはテレビ会社も持っています。

テレビ画面を占拠するという野望を現実のものとするため、マテシッツは2007年9月にレッドブルTV社を設立し、ORF(オーストリア放送協会)で重要な地位に就いていた人たちを引き抜いた。


ただし、従来的な放送という点では事業は小粒で、現時点ではオーストリアのケーブル番組としてのみ運営されています。人気番組の視聴者数は4.5〜5.5万人ほどとのこと。




出版社を持っている



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彼らは出版社を保有し、雑誌「レッドブレティン」を発行しています。オーストリア版とアメリカ版があるようです。

・マテシッツは2003年に出版界への進出を果たした。彼は個人として、親友の一人でKTMのスポーツディレクターであるハイツ・キニガドナーと元KTM取締役のマルクス・シュタウダーとともに、ザイテンブリッケ出版社株の過半数を取得した。

(中略)ある調査によると、「ほぼ独立した月刊誌」というスローガンを掲げる「レッドブレティン」は2011年前半でオーストリア国民の13.2%の手に渡っている。オーストリア国内での発行部数は110万部と公表されている。





レストランブランドを持っている




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美食体験を提供するため、マテシッツは何軒ものレストランを所有するだけでなく、美食ブランドを立ち上げた。それがカルペ・ディエムで、彼はレッドブルドリンクと同じくらいの成功を期待していた。しかし、このブランドは1997年の発足以来、あまり大きな動きを見せていない。どうやら翼が欠けているようだ。


カルペ・ディエムはレストランだけでなく、「コンブチャ」の販売も行っています。ただ、書中にもある通り、ブランドとしてはいまいち羽ばたいていません。




カフェブランドを持っている




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レッドブルとカルペ・ディエムに続き、ディートリッヒ・マテシッツは三つ目のブランドを立ち上げた。それがアフロカフェだ。(中略)ブランド展開の中心は「アフロカフェ」という名のコーヒーショップを運営することにある。


打倒スターバックス?ということなのでしょうか。ザルツブルクでカフェブランドも展開しています。こちらもまだ羽ばたいていない感じ。




超高級リゾートを持っている




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マテシッツはこの南洋の楽園(ラウカラ島)に1億ドル規模の豪華リゾートを建設する計画を立てていることが明るみに出た。当初の計画では2007年にオープンする予定だったが、この七つ星(!)リゾートが実際にオープンしたのは2009年だった。マテシッツは自分が親友たちとともにくつろぐためにこのホテルを建てさせたという。


こちらの記事によれば、「ヒルトップ・レジデンス」は1名1泊の宿泊費が2万6000ドル(約220万円)とのこと。ひえー…。




マテシッツ氏は秘密主義




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マテシッツは私生活について話すことを極端に避ける。あまりにも徹底しているため、過去にはマテシッツが実在することすら疑っていた社員がいたくらいだ。「最近、アメリカの女性社員が驚いて叫んだんですよ。『えっ、実在していたんですか!』って」。マテシッツはニュース雑誌「プロフィール」にそう語っている。彼にとっては笑い話だ。


以前「プロフィール」誌の編集長が伝記を執筆するために身辺と故郷を調査し始めたところ、マテシッツは激怒し、伝記プロジェクトはストップしたとのこと。そんなわけで、本作「レッドブルはなぜ世界で52億本も売れるのか」も、あくまで公開されている事実を洗っただけに止まっています。それでもこれだけ面白いのがすごい。




というわけで、メガブランド「レッドブル」の知られざる正体をまとめた良著です。マーケティングに関わる方は読んでおいて損のない作品です。