古本が高騰していたこの作品、なんとKindle化されて、しかもセールになっています。600ページに及ぶ大著ですが、ひとまず読み終えたので解説を書き残しておきます。



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「シンギュラリティ(特異点)」とは何か




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この本はアメリカの発明家で未来学者のレイ・カーツワイルが、21世紀に来るはずの「シンギュラリティ」について詳細な解説を記した作品です。彼は『The Age of Intelligent Machines』でインターネットの普及や、ロボットがチェスの王者になることを予言し、話題を集めました。

「シンギュラリティは近い」の副題は「人類が生命を超越するとき」。何を大風呂敷な、と思ってしまいますが、彼が予言する内容は、まさに人類における革命的な変化といえます。しかもこれらの変化は、21世紀中に起きると彼は語っているのです。

というわけで、書中から、彼がどのような世界を予言しているのかを抜粋してみましょう。いやー、ぶっ飛んでますよ、ホント…。




脳みそをデジタル化できるようになる



いきなりびっくりしますが、レイ・カーツワイルによれば、コンピュータの性能は指数関数的に向上し、「人間の脳の機能をスキャンできる」ほどに発達するそうです。つまり、ぼくらの脳みそをデジタル化し、保存したり、コピーしたり、デバイスにインストールすることができるようになるのです。

「脳をスキャンして理解する」よりももっと論議を呼ぶシナリオが、「脳をスキャンしてアップロードする」というものだ。人間の脳をアップロードするということは、脳の目立った特徴を全てスキャンして、それらを、十分に強力なコンピューティング基盤に再インスタンス化することである。このプロセスでは、その人の、人格、記憶、技能、歴史の全てが取り込まれる。


ややわかりにくい表現ですが、要するに、自分の脳をロボットにインストールすることができる、という話です。完全にSFですねー。

実際、すでに脳の機能の一部はシミュレーションが可能なまでにモデリングされているとのこと。以前紹介した脳波で義手をコントロールする実験もその一例なのでしょう。

すでに脳の数百の領域のうち数十は、かなり高度にモデル化されシミュレーションされている。20年以内には、人間の脳の全ての領域の働きについて、詳細に理解できるようになる。


しかもこの技術については、なんと2030年代の初めには実現できるだろう、と彼は予測しています。あと20年!


2030年代の初めというのが、アップロードを行うにあたって必要な、コンピューティングの性能、メモリ、脳スキャンの全てが揃う妥当な時期だ。





ヴァーチャル・リアリティが完全になる



脳の機構が明らかになると同時に、@ヴァーチャル・リアリティ(仮想現実)」が現実と変わらない水準にまで達します。

卑近な例だと、オフィスは完全に不要になる、と述べられています。

視覚的聴覚的に完全なヴァーチャル・リアリティ環境は、今世紀の最初の20年間で全面的に普及して、どこでも好きなところに住んで仕事をするという傾向がいっそう強くなるだろう

五感全てを組み込んだ完全没入型のバーチャル・リアリティ環境は、2020年代の終わりには実際に手に入ることになるが、そうなると、現実のオフィスを使う理由はまったくなくなる。不動産は、ヴァーチャルなものになる。


自宅にある小型のカプセルに入ってヘッドセットを付ければ、そこはもう職場で、仲間たちが変わらぬ様子で働いている。退勤時には「失礼します」と接続を切れば、そこは自宅…みたいな世界観ですね。うーん、これはいいかも。




エンターテイメントに関しても、面白い予測がなされています。

アップロードされた誰かの他の人の感覚・感情に接続して、その人になったような体験をする娯楽が人気を集めるだろう。


たとえば、ぼくが炎上しているときの気分を保存し、それをアップロードすれば、読者のみなさまもぼくと同じ気分が味わえるようになるわけです笑 教育においても使えそうですね。




臓器の大部分が不要になる



書中では、ぼくらは「ナノテクノロジーを使った極小のロボット(ナノボット)」を自分の身体に注入することができるようになり、それによって、臓器が不要になるとも書かれています。

まず、人間の生命の大きなリスク要因である「心臓」を不要にすることができます。血液は心臓のポンプを使って循環していますが、自ら運動する血球ロボットを血管に流し込めば、それで十分というわけです。

人工心臓への交換も実現し始めているが、もっと有効な方法は、心臓を完全に取り除くことだろう。フレイタスが設計したもののひとつに、自力運動性のナノロボット血球がある。血液が自動的に流れるのであれば、一点集中のポンプにひじょうに強い圧力が求められるという技術上の問題は解決される。


栄養はもちろん、ホルモンなども、血中のナノボットたちが提供してくれるようになります。

・やがて、血液やその他の代謝経路を流れる化学物質、ホルモン、酵素などを作り出す臓器も不要になる。いまやこれらの物質の多くについて、生体とまったく同じものを合成できるようになっている。


2030年代初頭には、ぼくらの臓器の大部分は不要になります。

2030年代の初頭、われわれはどうなっているのだろう。心臓、肺、赤血球、白血球、血小板、腎臓、甲状腺他全ての内分泌器官、腎臓、暴行、食道下部、胃、小腸、大腸などはすでに取り除かれている。この時点で残っているのは、骨格、皮膚、生殖器、感覚器官、口と食道上部、そして脳だ。





人間が死ななくなる



さて、このレベルまで人体をコントロールできるようになれば、「老化」のコントロール、さらには「死」の超克すらも可能になると考えられます。


ナノ医療が介入すると、最終的にはあらゆる生物学的老化を継続的に止めるだけでなく、現在の生物学的年齢から本人が希望する年齢へと若返れるようになる。(中略)このような介入は、あと数十年もたてばあたりまえになるだろう。

毎年、健康診断と体内戦場を受け、必要に応じておおがかりな修復を行えば、そのつど、生物学的な年齢を自分が選んだ生理学的な年齢に近づけることができる。

結局は思いがけない理由で死んでしまうかも知れないが、少なくとも今の10倍は長生きできるようになるだろう(ロバート・A・フレイタス・ジュニア)


冒頭で紹介した「脳のデジタル化」を行えば、自分という存在を別の場所に引き継ぐことも可能になります。ぼくらは「人体」というハードウェアを乗り越え、よりソフトウェア的な存在になるわけです。

今のところ、われわれ人間というハードウェアが壊れると、生命というソフトウェア—個々の「精神のファイル」—も一緒に消える。

しかし、われわれが脳と呼ぶパターンに納められた数兆バイトもの情報を保存し、復元する方法がわかれば、事情は違ってくる。そのとき、精神のファイルの寿命は、個別のハードウェア媒体の永続性には依存しなくなるだろう。

最終的に、ソフトウェアをベースとする人間は、今日われわれが知っている人間の厳しい限界を大きく超えるものになる。彼らはウェブ上で生きてゆき、必要なときや、そうしたいと思ったときには体を映し出す。


ぼくがもしも死んでしまったとしても、脳を保存してさえおけば、自分にそっくりなロボットに自分をインストールすることができ、娘や妻、仕事仲間は、ぼくのロボットを、ぼくとして扱えるようになる、という未来ですね。




人工知能が人間の知能を超える



技術的特異点という文脈で、もっとも重要視されているのが「強いAI」の登場。「強いAI」とは、人間と見分けがつかないレベルまで発達した人工知能のことです。

強いAIの登場は、今世紀にわれわれが目撃するもっとも重要な変革だ。その重要さは、生物の出現に匹敵すると言ってもよい。創造された生物はついに自らの知能を極め、その限界を超える術を見いだすことになる。


強いAIの登場は、「機械が人間より知能的に優れている」という状態を生み出します。これは、人間と機械の位置が逆転しかねない変化です。機械の方が「賢い」わけですから、ぼくら人類は、そんな賢い機械の道具としてしか機能できなくなる可能性があります。

機械は知識や技能の習得・共有にまったく時間が掛からない(ソフトウェアをコピーすれば、すぐに同じ動作ができるようになる)ので、ひとたび機械が人類の知能を超えたら、あとは指数関数的に、機械の知能が向上していくことになります。

この先にあるのは一体どんな世界なのか。機械が人間を支配する、人間は自らの体を捨て機械になっていく、人間はどこまでも機械を道具として扱うことに成功する…各種のSFで描かれているのでしょうね。




いやはや、これらの変化が21世紀中に訪れるというから、ヤバい話ですね。他にも、

・クローン技術によって食料を生産できるようになり、飢餓がなくなる
・遺伝子をコントロールすることで、美食をどれだけ楽しんでも、肥満にならないようになる
・エネルギー問題が完全に解決する
・ワームホールを生み出し、ワープできるようになる
・霧状のナノボット(フォグレット)によって、ヴァーチャル・リアリティが現実空間で実現されるようになる
・宇宙を支配できるようになる
・新しい宇宙を生み出すことができるようになる


なんてクレイジーな予言の数々が飛び出しています。なんかもう、人類どうなっちゃうんでしょうね!ワクワクします。




彼の予言はぼくらの感覚からすれば、どう考えても「ありえない」話です。が、100年前の日本人に「21世紀初頭には、手のひらサイズの小さな機械で、世界中の人とコミュニケーションができるようになっている」と説明しても、やっぱり「ありえない」と返ってくるのではないでしょうか。同様に、未来はぼくらにもわからないはずです。

というわけで、「ありえない」未来をぜひ本書で体験してみてください。先に言っておきますが、読み切るのが大変なほどの大著です。セール価格の999円はホントにお買い得。






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