「ネット選挙とデジタル・デモクラシー」に収録されている、NHKの伊槻雅裕さんの記事が大変面白かったのでまとめてみます。




「ドイツ海賊党」とは




Piratpartiet svg

この本を読むまで知らなかったのですが、「ドイツ海賊党」、たいへん面白い政治活動です。もともとはスウェーデン発祥で、特に著作権関連の法規制を問題視している政党です。海賊党の「海賊」は、いわゆる「海賊版」を文字ったものです。

海賊党(かいぞくとう、英語: Pirate Party)は、ファイル共有ソフトやブートレグCDの合法化を主張する政党。
2006年に設立されたスウェーデン海賊党が筆頭。欧州議会選挙で2議席を獲得し、これに触発され世界各国で相次いで設立されている。国際組織として海賊党インターナショナルが存在する。
支持層は30代以下が多い[1]。

海賊党 - Wikipedia


日本を含め、海賊党は世界中に存在しています。中でもドイツの海賊党は、議席を獲得するほどのムーブメントになりつつあるそうで。

まず、2011年9月のベルリン市議会選挙で、海賊党は8.9%を得票。

(中略)その後、ザールランド州議会選挙で4議席を獲得し、議会の第4党に。2012年5月のシュレスヴィヒ=ホルシュタイン州の議会選挙では6議席を獲得し、翌週のノルトライン=ヴェストファーレン州の選挙では、7.8%の票を得て20議席を獲得した。

2012年4月10日の調査機関フォルザの世論調査では、支持率は13%で、キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)、社会民主党(SPD)に次いで3位に上昇。今まで第3位だった緑の党(Die Grünen)を追い越した。


主張の内容は、インターネットに寄ったものです。また、ベーシック・インカムも支持しています。

海賊党のホームページを開くと、自己紹介欄に党の基本方針が簡潔に述べられている。

「情報化社会における自由と権利のために戦います。監視と検閲に反対します。そして政治の透明性と公正な著作権のために戦います」

(中略)ホームページ画面をスクロールしていくと、「もっと参加を」「複製の自由と自由な使用」「プライバシーとデータ保護」「国家の透明性」「社会の多様性」「個人の才能を伸ばす教育」など、海賊党の基本的考えを示す見出しが並んでいる。

(中略)海賊党の主張のうちインターネット関連以外でとくに目立つものに、「無条件ベーシック・インカム」がある。「無条件ベーシック・インカム」は、ドイツ国民なら条件を一切問わず誰でも無条件に一定の生活費が支給されるという制度だ。

ネット選挙とデジタル・デモクラシー(p.180,181)」


政党の運営の仕方も特徴的。

海賊党の組織の特徴は、党内ヒエラルキーをなくそうとしていることだ。役員は党首、副党首、会計、幹事長など7名。それ以外は、ドイツ全国に16ある各支部に支部長がいるだけで、党員の発言権は年齢や経歴に関係なく同等である。(中略)海賊党の目指すリーダーモデルは「オープン・リーダーシップ」だ。

ネット選挙とデジタル・デモクラシー(p.179)」


「透明性」を掲げているだけあって、議会の運営や議員の情報発信も、ライブストリーミングやツイッター、ポッドキャストなど、全方位的に活用している様子。




液体フィードバックと液体民主主義(liquid democracy)



特に思想的に、実践的に面白いのが「液体民主主義」という考え方。ネット選挙とデジタル・デモクラシーによれば、「液体」というのは「時代に合わせた柔軟さと、透明性が高い全員参加のシステムを表している」とのこと。

液体民主主義の骨幹となる「液体フィードバック」の仕組みについても解説があります。うーん、面白い…。

1. まず党員が、党のサイトに政策の提案をアップする。
2. 提案は、ネット上で海賊党全員に公開される。
3. 提案を診た党員たちはこの提案に対して討論すべきかどうか、の投票をする。提案かr亜投票までの期間は短いもので最高8日間、長いもので最高15日間と決められている。
4. ここでもし賛成が1割に満たない場合、その提案は却下される。1割を超えると討論に進むことができる。
5. 提案に対して補足したり、批判したり、手を加えるなど修正案は自由に出せる。しかもハンドルネームを使って匿名で参加できる。また、提案者が修正案を受け入れて修正することももちろん可能。討論期間は短いもので15日間、長いもで8週間。
6. 討論期間のあと、採決まで凍結期間という時間をおく。これも短いもので8日間、長いもので15日間。
7. 採決は、重要度によって必要な賛成票が半分以上のもの、3分の2以上のものとある。採択されれば、海賊党の政策提案として正式に認められる。


これらの仕組みは活発に使われており「常時5000もの提案が、延べ1万人を超える党員の間で検討されている」そうで。すごい規模ですね。「液体フィードバック」は、誰でもすぐに政策の提案に関わることができる点が、特に若い世代の支持を得ているようです。




課題と展望



書中では彼らが抱える課題も浮き彫りにされています。

党員の失言や党役員のスキャンダルなどもあったが、もっとも根本的な問題は、海賊党が理想とする政治のあり方に潜んでいる。参加者の意思を重んじるあまり、決定に時間がかかりすぎるという問題である。

(中略)党大会の二日間の日程が終わり、予定されていた744の議題のうち、採決されたのはわずか28。どう考えても時間が足りない。

(中略)今回採決された経済政策は、結局「経済は自由で持続可能性があり公正なものであるべきだ」という基本綱領だけ。外交についても、具体的なことはほとんど決まらなかった。


現在、支持率は下がりつづけており、2012年12月には5%を切り、2013年1月にニーダーザクセン州の選挙では、議席獲得に至らない2%という結果に終わりました。

海賊党の火はまだ消えておらず、本書発行時点では、4つの州議会で議席を得ているとのこと。これからの政治的成果次第では、まだ重要な党でいられるだろう、とベルリン自由大学のオスカー・ニーダーマイヤー教授は語っています。




日本の海賊党は、まだここまでのムーブメントになっていませんが、時間差で同種の政治活動が広がっていく可能性はあると思います。日本におけるネット上の政治活動というと、ネット右翼の存在ばかりが目につきますが、もっと建設的なオルタナティブが登場してほしいものですね。

日本においては、津田さんのやってるゼゼヒヒポリタスchange.orgあたりが良い感じに発展していくのだろうか。デジタル・デモクラシーの萌芽に期待です。




というわけで、非常に読み応えのある作品です。この記事で紹介したのはドイツ海賊党のごく一部ですので、さらに詳しく知りたい方はぜひ本書を手に取ってみてください。