これも実に面白いノンフィクション。超一級ですね!知らない事実がてんこ盛りで、最初から最後までワクワクと読むことができました。メモを残しておきます。




音楽と脳の不思議な関係



・「とてもわかりやすく、それでいてなんとも不可解な、言いようのない音楽の深みは、音楽が私たちのもっとも内側にある感情をすべて再現しているのに、リアリティがまったくなく、痛みからはかけ離れている……という事実に起因する。音楽は陣しえとそこで起こる出来事の真髄のみを表現し、決してそれ自体を表現するのではない(ショーペンハウエル)」

・「われわれは筋肉を使って音楽を聴く(ニーチェ)」


・雷に打たれてから三ヶ月目に、チコリア—かつてはおおらかで陽気で家族想いで、音楽にはほとんど関心がなかった男—は音楽に霊感を受け、憑かれ、ほかのことをする時間がほとんどなくなった。ひょっとすると、自分は特別な目的のために「救われた」のかもしれない、と彼は思い始めた。「私が生き延びることを許された唯一の理由は、音楽なのだと考えるようになりました」と話している。

・「聴覚発作の最中に聞こえている歌が、正確に何の歌なのかをはっきり言うことはできないのですが、とても聞き覚えがあるように思えるのは確かです。それどころか、あまりにも憶えがあるので、その歌が近くのステレオから鳴っているのか、それとも自分の頭の中で鳴っているのか、わからなくなることがあります」

・1960年代、研究者が「ホワイト・クリスマス効果」と読んだものについて、結論の出ない実験が行われた。当時世界中で知られていたビング・クロスビーの歌う<ホワイト・クリスマス>がかかったとき、ボリュームをゼロ近くまで下げても、あるいは実験者がその歌をかけると言いながら再生しなかったときでさえ、「聞こえた」被験者がいた。そのように無意識に音楽を頭に浮かべる「埋め合わせ」は、最近、ダートマス大学のウィリアム・ケリーらによって整理学的に確認されている。

・音楽幻聴すべてに共通の特徴—最初は外から聞こえるように思えること、たえまがないこと、断片的で反復すること、不随意でわずらわしいこと—はあるが、細部は千差万別だ。

・文化的なリズム音痴もある。エリン・ハノンとサンドラ・トレハブが報告しているように、生後六ヶ月の赤ん坊はいつでもあらゆるリズムの変化を感知できるのに、一切に鳴ると、変化には敏感になるが、感知できる幅は狭くなる。以前に体感したことのある種類のリズムを容易に感知できるようになる。自分たちの文化に合ったリズムのセットを学び、自分のものにしているのだ。大人になるとさらに、「異文化」リズムの特徴を感知するのは難しく感じられる。

・大抵の場合、メロディーが聞こえないのは、音高の識別能力が非常に弱く、楽音の知覚が歪められているからだ。しかし、要素としての音は完ぺきに聞こえていて、識別できているのに、メロディーを認識する能力がない人もいる。これは高次の問題だ。「メロディー音痴」あるいは「失メロディー症」は、単語そのものは完全なのに、文の構造や意味がわからないのに似ているかもしれない。

・「私の場合、リズム感はとてもよいが、別の意味でほぼ完全に失音楽症だ。私に欠けている要素は、音と音の関係を聞き取り、それが相互にどう作用し、絡み合っているかを聴覚で十分に理解する能力だ。」

・絶対音感のある人にとって、あらゆる音、あらゆる調は、質的に異なり、それぞれに独自の「味」や「感じ」、独自の特性があるように思えるのだ。絶対音感のある人はそれをよく色になぞらえる。

・ダニエル・レヴィティンとスーザン・ロジャーズによると、絶対音感のある人が「よく知っている楽曲がちがう調で演奏されているのを聞くと、たいていの場合、いらだちや不安を感じる。……それがどんな感じかを理解するには、一時的に視覚作用がおかしくなったせいで、青果店のバナナがみんなオレンジ色に、レタスが黄色に、リンゴが紫色に見えるところを想像してほしい」

・とくに興味深い相関の一つに、絶対音感と言語的背景の関係が挙げられる。この2、3年間、ダイアナ・ドイチュらはその相関を詳しく調べ、2006年の論文に「ヴェトナム語と北京語を母語として話す人たちは、単語のリストを読むときに非常に正確な絶対音感を示す」と述べている。

・チューリッヒの研究者、ギアン・ベーリ、ミカエラ・エスレン、ルツ・ヤンケは、音楽と色、音楽と味、両方の共感覚をもつプロの音楽家について述べている。「彼女は特定の音程を聞くたびに、それとつねに結びつく味を反射的に舌に感じている」。

・「時間はつねに新しい。新しくないものにはなりえない。音響事象の連続として聞く音楽は、すぐに退屈になるが、時間生起の表れとして聞く音楽は、決して退屈にならない。このパラドックスをもっとも強烈に示すのは、完全に熟知している作品を、今この瞬間につくられたものであるかのように演奏できるまでの高みに達した演奏家の偉業である(ツカーカンドル)」

・「とても音楽好きの自閉症児を診ているのですが、彼には典型的な言語障害があります。とくに長い時間をかけて言語を「処理」し、そのあと質問を数回繰り返されてはじめて、言葉による答えを発するのです。けれども、私が質問を歌って聞かせると、すぐに答えを歌で返せることに気づきました」

・アンソニー・ストーは名著「音楽する精神」のなかで、あらゆる社会において、音楽の基本機能は結集と親交、つまり人々をまとめて団結させることだと強調している。


・「目覚めると頭のなかで美しい曲が流れていた。「これはいい、何だろう?」と思ったね。すぐそばに、ベッドの右側の窓のそばに、アップライトピアノが置いてある。僕はベッドから抜け出し、ピアノの前にすわり、Gの音を出し、Fシャープ・マイナーセブンスを弾く—それがBからEマイナーにつながり、最後にEに戻る。すべてが論理的に進行する。僕はそのメロディーがとても気に入ったが、それを夢で見たわけで、自分がつくったとは信じられなかった。(ポール・マッカートニー)」


・「夢の中では行動、特徴、視覚的要素、そして言葉はすべて修正されるか歪められるが、音楽だけは夢という環境によって変化しない(アーヴィン・J・マッセイ)」



あまりにも面白かったので、何本か別途記事を書いています。こちらも合わせてぜひ。

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