名作ノンフィクション「音楽嗜好症」に大変興味深い話が掲載されていたのでメモがてらご共有。




チックと音楽



まずはこの動画をご覧下さい。




まぁ、普通にめちゃくちゃうまいドラマーの演奏風景です。が、この方、トゥレット症候群という障害を持っている人なのです。


トゥレット症候群は,チック症の中で最も重症のものであり,自分の意志とは無関係に,突然繰り返して起こる体の運動(運動チック)とノドや鼻を鳴らしたり,声を出す事(音声チック)とを主症状とする家族性の神経の病気です.

運動チックとは,目ばたき,顔しかめ,首振り,肩のぴくつき,他人や物へのタッチ,匂い嗅ぎ,キック,ジャンプなどであり,音声チックとは,咳き払い,ノド鳴らし,鼻鳴らし,甲高い声,意味不明な言葉や自分または他人の言葉尻りの繰り返し,時には,卑猥な言葉や非常識な言葉を発してしまう事です.

トゥレット障害って何ですか?


オリヴァー・サックスが報告するところによると、トゥレット障害を持っている方は、ミュージシャンとして才能を開花させることがあるそうな。冒頭の動画で紹介しているドラマー、デイヴィッド・アルドリッジも、トゥレットがきっかけでプロのドラマーになったそうで。

私は六歳のときから、飽きるまで、リズムに身を任せて車のダッシュボードをたたいていた。

……テーブルをトントンたたくことで、自分の発作的な手や足や首の動きを隠すことができるとはじめて気づいたその日から、リズムとトゥレット症候群は絡み合っている。

……この新たに気づいたマスキング(隠すこと)は、実際、私の抑えきれないエネルギーをつなぎとめ、きちんとした流れに向かわせた。

……この「爆発許可」によって、私は膨大な音の宝庫と体感覚を生かすことを許され、目の前の自分の運命を悟った。私はリズム・マンになる運命だったのだ。





他にもトゥレット症候群を抱えるドラマーでは、マット・ジョルダーノという才能が存在します。ちょっと画質荒いですが、圧倒的な演奏!このエネルギーはすごい…。



彼はトゥレット症候群の患者向けのドラム・ワークショップも開催しているそうで、書中ではそれを見学したオリヴァー・サックスの感動が記されています。

30数名のトゥレット観じゃのあいだに、チックの突発、チックの伝染が、さざ波のように広がっていく。ところが、マットの指導でドラム・サークルが始まったとたん、すべてのチックがあっという間に消えた。突然、同期が生まれ、彼らは一つの集団として団結し、マットに言わせれば「いまこの瞬間にリズムに乗って」パフォーマンスを繰り広げる。





ドラム以外にもピアノで才能を発揮している方も。ニック・ヴァン・ブロス。

ヴァン・ブロスがはじめてかなり爆発的な症状を起こしたのは7歳のときのことで、学校の友だちからひどくばかにされ、いじめられるようになった。彼のチックが鎮静することはなかったが、家族にピアノを買ってもらったことで、人生が一変する。

(中略)「ピアノを弾いているとき、チックはほとんど消えるように思えた。まるで奇跡だ。学校では一日中チックを起こし、揺れ動き、言葉を爆発させていたが、疲れて家に帰ると、ピアノに駆け寄って時間の許すかぎり引いていた。(中略)自分の一部と言えるほど常態化していたチックから、離れられる時間ができたのだ。


東京に来日した際のコンサートより。まぁ、普通にプロですね。







上のアーティストたちの演奏を診ていると、「障害」というのは、なんとも一方的な言葉であることを実感しますね。音楽を演奏する、理解するといったことに関しては、ぼくらの方がよっぽど不自由で、障害があるといっても過言ではありませんから。

ちなみに、オリヴァー・サックスは「強力な証拠はない」と注記していますが、一説によればモーツァルトもトゥレット症候群だった可能性があるとか。へー。




その他、様々な切り口で音楽と脳の関係について語っています。読み応え抜群の名作です。音楽好きの方はぜひ。