これ、すごい本ですね!固いタイトル、固い表紙なので避けてしまう人が多そうなのがもったいない。読みやすいですし、中身も超充実しています。





事実を訊こう



本書のテーマは途上国支援の現場におけるコミュニケーション(ファシリテーション)技法。少々長くなりますが、冒頭に掲載されている、特に印象的な箇所をご紹介。感動的な鮮やかさ。


まず私が質問した。
「朝ごはんには、あなたは何が好きですか」
一番前に座っていた女性、シリンさんが、答えた。
「チャパティ(インド風薄焼きパンの一種)です」
私はさらにたずねた。
「では、普段、あなたは何を食べていますか」
チャパティです
私「今朝、何を食べましたか」
「ご飯です」
私「では昨日の朝は」
「ご飯です」
私「一昨日の朝食は」
シリンさんは苦笑いしながら答えた。
ご飯です

(中略)「私は朝ごはんに関連して3つのタイプの質問をしました。第一番目が「何が好きか」。二番目が「普段、何を食べるか」というもの。3つ目が「今朝、何を食べたか、昨日は、そして一昨日は」というように順に聞いていくものでした。このうち一番目は、好き嫌いなどの「感情、あるいは気持ち」をたずねるための質問でした」

それから私は改めて質問した。
「では、「事実」をたずねるための質問はどれですか」
すると、シリンさんは「二番目」と答えた。
私「じゃあ、三番目は」
「これも事実です」
「すると、二番目の答え(「普段食べているのはチャパティ」)と三番目の答え(「ここ三日間の朝食はご飯」)が食い違ったのはなぜだろう」と私がたずねたところで、シリンさんがことの次第を悟った。
「二番目の質問は、一見事実をたずねているようですが、そうではありません。事実をたずねているのは三番目だけです」

私「では、二番目の質問(「普段、何を食べるか」)はいったい何をたずねる質問だったのでしょう。シリンさんの答えは一体なんだったのでしょう」

これは本書でもっとも核心を突く質問なので、読者のみなさんもいっしょに考えてほしい。シリンさんに対して私が訊ねたのは、事実ではなく、何だったのだろう。

シリンさんはしばらく考えていた。やがて神妙な面持ちで答えた。

「私の思い込みではないでしょうか」


注意したいのは、日常的なシーンでは、「では、普段、あなたは何を食べていますか」という問いに対して、「チャパティです」という答えが返ってきた場合、双方がそこで満足して、対話が終わってしまうということです。そこで終わったとしても、双方はなんら違和感を覚えることはありません。しかし、言わずもがな、ここで満足してしまっては、「実はお米をよく食べていた」という事実は明らかにされることはありません。




この手の対話のミスは、途上国支援にかぎらず日常的に見られることだと思います。

たとえば影でいじめられている子どもに対して、親が「最近元気がないけどどうしたの?」と訊けば、子どもは「いい子」であればあるほど「そんなことないよ!心配しないで大丈夫だから」と真実を秘匿します。

もし、聞き方を変えて「最近元気がない気がするけど。いじめられてるの?」と訊けば、子どもはギクっと表情を固くし、そのまま口を割る可能性が、「どうしたの?」と訊くよりは高くなるでしょう。

「どうしたの?」という問いに「大丈夫だよ」と答えるのは嘘ではないですが、「いじめられてるの?」という問いに「いじめられていない」と答えるのは、嘘になってしまうからです。




上司が部下に「最近どうだ?」と訊く際も、部下はほとんど必ず「楽しくやっています」と回答するでしょう。「ぶっちゃけ仕事がつまらないので転職考えてます」なんてことはふつう言えません。

しかし、もし上司が聞き方を「事実」に寄せるように工夫し、「最近残業多いな。いまの仕事の満足度は、100点満点中何点だ?」などと質問すれば、いくぶん部下も真実を語りやすくなるでしょう。




陥りがちな対話の罠について、著者は次のように続けています。

バングラデシュやネパールの村に行き、私は訊ねる。
「暮らしぶりはどうですか?」
「今年のお米のできはよかったですか?」
「先月設置した手押しポンプ井戸は、使われていますか?」
「読み書きを習ったら、何に使いますか?」
これらは一見事実を尋ねているようにも思えるが、よく考えてみれば、どうにでも答えることができる、あいまいで一般的な質問に過ぎない。私は、相手が私の知りたいことをそれなりに教えてくれることを期待しているわけでが、現実は、そんなにうまく行くはずがない。
私や周りの人の顔色をうかがいながら、適当な答えを作り上げるだけだ。つまり、その答えは事実を軸としたものではなく、答え手の、思い込みや考えが強く反映されたものになる。

それなのに、私は、現地の人々との対話と称して、村人や地域の人々、あるいはNGOのスタッフを相手にずっとこんなことをやっていた。






「事実」を中心にたずねるための技術として、著者は「WhyやHowを使わない」を紹介しています。

本当の原因を知りたいのであれば、「なぜ?どうして?」と当人に聞かないほうがいい。卑近な例で言えば、「先生、お腹が痛いんです」と言う患者に対して、医者が「どうしてですか?」と聞くはずがないということだ。患者の自己分析など訊ねないで、医者は「いつからですか?」「今朝は何か食べましたか?」という具合に問診、すなわち事実質問を重ねていくことを私たちはよく知っているではないか。





さらに、「なぜ」ではなく「When(いつ)」をたずねると、相手が自ら答えを語ってくれる、という重要な指摘もしています。ホントこの本すごいです…。

転職した友人や知人に、まず「なぜ転職したの」と理由を聞いてみることだ。相手の答えをひとしきり聞いた後で、今度は「前の職場を辞めようという考えが最初に起こったのはいつだったか、覚えてる」と聞いてみるがいい。それで十分でなければ、次は「最終的に決意したのはいつだったか覚えてる」と聞けばいい。

相手が勝手に「本当の理由」を語り出すこと請け合いである。「考えさせるな、思い出させろ」。これが対話型ファシリテーションの鉄則である。






長々と引用してしまいましたが、これは本書の冒頭に過ぎません。他にもまさしく目から鱗な指摘がふんだんに溢れています。

3,500円と高価な本ですが、これは間違いなく買って損はありません。テーマは途上国支援ですが、書かれている内容は普遍的に活用することができるものです。おすすめの一冊です。




著者のおふたりはNGO団体「ソムニード」の代表も務めています。現場で培った専門的なノウハウをこうして共有してくれるのは実に素敵ですね。