別記事(「子どもを持つ持たないは個人の自由だから、私の税金が使われるのはおかしい!」)にてピックアップしましたが、全体の読書メモも残しておきます。





世代間格差の計量経済学分析




・世代会計の研究者であるアゥアバックやコトリコフらは、世界17カ国を対象院1995年時点に計測した世代間不均衡の水準の比較を行っている。(中略)わが国の世代間不均衡の水準は169.3%(すなわち将来世代は0歳世代よりも169%多く負担する)と、17カ国の中でも群を抜いて高くなっている。ちなみに、アメリカは51%、イタリアが132%などであった。

・現在、65歳の人が生まれた当初に背負っていた借金は、国民一人当たりわずか14.8万円でしかなかった。しかし、30歳の人が生まれた時点ではこれが99.4万円に増加し、さらには最近生まれた2歳児は、なんと723万円の借金を背負って誕生した計算になる。

・2010年の25〜34歳の失業率をみると、男子が6.6%、女子が5.7%デアッタ。そのちょうど30年前に生まれた世代の25〜34歳失業率は、男子が1.9%、女子が2.9%であったので、両者を比較するとまさに大きな格差がある。

・応益原則とは、その社会的行為によってもたらされる便益に応じて負担を行うべきとする考え方であり、応能原則とは負担能力の大きさに応じて負担を行うべきとするものである。

・若者世代の負担で高齢世代の多くの給付が行われても、将来、これが遺産として若者世代に継承されるのだから若者の負担が大きいわけではないという見方もある。しかし、現在の高齢世代に対する給付には医療や介護等の現物給付が多く、これらは遺産として相続できない。また、高齢者が多額の民間貯蓄を所有していても、それが若者世代に均等には配分されるわけではなく、そもそも政府債務の累増を考慮すれば、民間貯蓄から政府債務を惹いた国民貯蓄は限られるものとなる。

・わが国の医療制度の特徴のひとつにフリーアクセスがある。諸外国では一般家庭医という一次医療(プライマリー・ケア)を担当する医師を受診しなければ専門医にかかることができない国も多い。

・社会保障給付費の推移を見ると、ほぼ右上がりに増加している。1980年度では24.8兆円、対GDP比では10.1%にすぎなかったのが、ほぼ30年で額にしておよそ3.8倍、対GDP比では2倍近く増加したことになる。

・2008年度の高齢者関係給付費は65.4兆円であるのにたいし、児童・家族関係給付費は1.6兆円にも満たない。社会保障給付費全体で見ると高齢者関係給付費は69.5%を占めているが、児童・家族関係給付費は3.9%にすぎない。(中略)現役世代の負担の多くが、次世代の子どもたちではなく、前世代の高齢者に向かっているということを意味している。

・わが国は欧米諸国などに比べ、受診回数が多いことや入院日数の長いことが特徴となっている。ちなみに、2007年の急性期患者の平均入院日数をみるとOECD平均では6.5日であるのに対し、わが国は19.0日であって、他のOECD諸国と比べても突出している。

・近年、「フレキシキュリティ(flexicurity)」ということばが聞かれるようになった。これは柔軟性を表す「フレキシビリティ」と生活保障を示すセキュリティを組み合わせたことばであり、具体的には柔軟な労働市場と就業支援や能力開発などの積極的労働市場政策の推進と、雇用保険等のセーフティネットの強化を目指す。

・わが国の2007年の家族向け支出の対GDP比は0.79%と、OECD34カ国の中で下から4番面目に低い。(中略)OECD全体の平均である1.94%と比べてもわが国の支出水準は大きく見劣りする。

・少子化対策を考えると、給付は現物給付の方が好ましいと考えられる。現行の子ども手当を取り上げてみても、それが育児支援等を対象とするものであれば少なくとも子どもの育児費用に充てられるべきであるが、現金で給付されるかぎりその保証はない。(中略)など、厚生労働省が2010年に行った「子ども手当の使途などに関する調査」では、子どもの将来のための貯蓄・保険料として使用するという回答がもっとも多く、消費目的には使用されず、景気対策としての効果も薄い。(中略)わが国の家族向け支出の対GDP比は2007年で0.79%であり、その内訳は現金給付が0.43%、現物給付が0.36%と現金給付の方が多くなっている。

・現物給付の対GDP比が高い国ほど出生率は高いことがわかる。統計的な分析の結果から、現物給付の対GDP比率が1%上昇すると、合計特殊出生率は0.30程度高まることになる。(中略)現物給付を説明変数にした場合には優位な関係は得られなかった。サンプル数が少ないという点はあるにせよ、現物給付のみが出生率に影響を与えているという結果は興味深い。

・大卒女子の生涯所得は退職金を含めおよそ2億7600万円であるが、出産・育児のためいったん退職し、他の企業に正社員で復帰する場合の生涯所得は1億7700万円、またパートやアルバイトで復帰した場合は4900万円となる。したがって、出産・育児のための機会コストは前者が9900万円、後者では1億7700万円にのぼることになる。こうした機会コストの存在が、子どもを持つコストを高め、出生率低下の一因になることは多くの研究者が指摘してきたことである。

・世代間不均衡と経済成長率には負の関係がみられ、世代間不均衡の高い国ほど経済成長率は低くなっている。

・社会保障が経済成長を阻害するという論拠に対しては、例えば鈴木(2010)などでも詳細に検討されている。一般には、社会保障の充実は、①社会保障負担の増大による消費の低下、②企業負担増加による投資減、③働くことのインセンティブ低下による労働供給源、などから経済成長に負の影響をもつと考えられる。

・希少な医療資源を効率的に利用し、かつフリーアクセスによる外来医療費の節約を行うには、ゲートキーパーの仕組みをわが国でも検討すべきである。

・急増する医療費負担のあり方を考えると、現在の制度のように主として現役世代が医療費を負担することには限界がある。これを解決するには、医療に関して自助努力の仕組みを組み込む必要がある。(中略)わが国の医療保険制度をビッグリスク対応型として、スモールリスクに関しては自助努力を重視するのであれば、MSA(医療貯蓄講座:Medical Saving Account)をスモールリスクへの具体的な対応策として活用することもできる。

・現在の相続税の納付状況をみると、死亡者に占める課税件数は近年およそ4〜5%程度であって、ほとんどの場合相続税の納付は行われていない。相続遺産は、生涯に得た所得のうち消費に回さなかった分としてとらえれば、これを社会にできるだけ還元するということも検討すべきであろう。







という感じで、感情的に論じられがちな「世代間格差」というテーマに、計量経済学の手法で臨んだ一冊となっています。意外な発見も多く、本の大半に折り目をつけてしまいました。グラフも豊富で、書斎に保存しておきたい感じです。





また別記事にて取り上げたいところですが、特に驚いたのがこちらのグラフ。青が社会保障給付費全体、赤が高齢者関係給付費、下を這っている緑の線が児童・家族関係給付費。ヤバいですね。いくら高齢化が進んでいるとはいえ、これはまさに世代間格差。

Social security benefit h19

binWord/blog - 高齢者と児童・家庭の社会保障給付費を比較より)