これは何気に隠れた名著。ほとんど話題になっていなかった気がするのですが、なんででしょう?
読書メモをアップ。




DIYで遺伝子ハック



・カウエルは、マサチューセッツ州ケンブリッジのみならず、サンフランシスコやニューヨークなどにいる仲間とともに、自分たちを「バイオハッカー」と呼んでいる。生物(バイオ)とコンピュータの類似性から思い付いた呼び名だ。コンピュータへの命令がプログラミングできるのなら、生命体への指示もプログラミングできるのでは、という発想だ。

・「イノベーションが生まれるのは、いろいろな専門知識を持つ人を一つの部屋にたくさん集めて、いっしょに問題解決しようと取り組むところからだ。立場に関係なく、知識と情熱だけでだれでも生物学をできるようなしくみや場があれば、世界はもっとよくなる。生物学なんて、これまでの歴史のほとんどは、料理とさほど代わらなかったんだから。」

・オールは、自宅のキッチンでそろうものとインターネットで買える中古品だけで遺伝子検査システムを組み立てることにした。高圧電源ユニットを一台と、DNA断片を複製するためのサーマルサイクラーを一台用意するのに100ドルちょっとかかった。化学反応に必要な酵素は、温泉地帯にふつうに棲息している最近から抽出した。

・彼女がおこなった遺伝子検査は、コストを劇的に下げたという点を除いては、バイオテクノロジーの大躍進と呼べるようなものではない。(中略)オールの遺伝子検査は新しい科学ではないが、科学の新しいやり方ではある。高度な最先端科学のうち、利用可能で実用的な一部分を、アパートのクローゼットで中古の道具を使ってやるのだから。

・最初のトレンドは、サービス産業としてのウェットラボが増えてくることだ。現在既に、趣味でやっている人でも数百ドルを支払う気さえあれば、キッチン・スポンジから綿棒で採取した試料や、唾液をバイアルに入れた試料をDNA配列読み取り会社に郵送して、その試料のDNA配列のスキャン結果をEメールで受け取ることができる。

・「僕らがしているのは一言では説明しにくい」とシックは語る。(中略)バイオハッキングは、生物学を「シンプルに、扱いやすくすること」だとシックは言う。

・ラバアンプ(世界最小のサーマルサイクラー)の小売価格は100ドル未満に抑えたい。目標は、今後の農村で科学者が、ベイエリアのウェットラボと同程度の簡便さでDNAを操作できるようになることだ。

・ヌニェス・ムヒカが想定している使い方はこうだ。たとえばグアナリトのようなところで感染症が発生したら、公衆衛生間がひとり、すぐに現地に駆けつける。持参するのはラバアンプとDNA読み取り機、グアナリト出血熱とシャガス病とデング熱のプライマーを入れたバイアル三本だけだ。そして現地で、出血熱、シャガス病、デング熱を引き起こす病原体の遺伝子があるかないかを調べる。答えは数分で出る。材料は安価で携帯性は抜群、その場で結果がわかる。こんなキットなら貧困国の政府でも大量にまとめ買いできる。


・メレディス・パターソンは「バイオパンク宣言」にこう書いた。「ロサンゼルスのダウンタウンに住む13歳の中学生にも、大学教授と同じように世界の探求をする権利があります。遺伝子を調べたい人にとってサーマルサイクラーが高すぎるというなら、私たちが安価なものを設計します。自分で組み立てたいという人には、組み立て方を教えます」

・バイオテクノロジーのパイオニア、J・クレイグ・ベンターは2010年5月、初の合成生物を作成したと発表した。DNAを人工的に一文字一文字繋ぎあわせてつくった自己複製するこの微生物は、シンシアと名付けられた。シンシアのゲノムは全長およそ110万文字だ。

・エンディは、いまの合成生物学が工学設計できるのは「ニューヨークタイムズ」の社説1000文字に相当する程度の遺伝子だ、という比喩をよく用いる。(中略)大腸菌のような最近を合成するとすれば次世代以降の生物学者が、何らかのツールを使ってロシア文学の小説を一本、およそ350万文字を書き上げなければならない、とエンディは言う。

・つまり、バイオテロをするのに遺伝子工学は必要ないということだ。必要ないどころか、テロに遺伝子工学を使うなど馬鹿げている。生物毒素を製造するならはるかに簡単な方法がすでにあるのだから。ドリュー・エンディに言わせれば、生物工学なんてものは「時間ばかり食ってちっとも先に進まない」。世界制覇が目的だったら、回り道もいいところだ。


こんな感じで、「DIY生物学」の現状と未来について、14章構成で事例たっぷりに語られています。

今年のテクノロジー関連書は「MAKERS」が一番だと思っていましたが、インパクト的にはこちらも負けていません。というか、デジタルファブリケーションについては類書で既に知っていたので、個人的には「バイオパンク」の方が驚きに満ちた一冊でした。

バイオテクノロジーに関しては、かのスティーブ・ジョブズも注目していたとか。次の産業革命はここから生まれるのかもしれません。30年後に読み返したい一冊です。




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