ノマド云々の話もあるのでジャック・アタリのベストセラー本を読んでみました。



巻末:「21世紀を読み解くためのキーワード集」より



・超帝国(未来の第一波):すべてマネーで決着がつく、級よくの市場主義が支配する世界。民主主義は雲散霧消し、国家権力は骨抜きとなり、稼いだものが勝ちという社会になる。その第一波は公共部門の解体にあり、医療・教育・文化など、公益を確保しなければならない部門までがマネーに汚染されてしまう。公害問題に対する取組みなども、排出権取引の導入などでマネーゲームの対象となる。

・超紛争(未来の第二波):国境を跨いで跋扈する様々な暴力集団による破壊的衝突。非合法組織同士の殺し合いはもちろん、多極化構造による勢力争いをめぐった紛争、度を超えた拝金主義や科学万能信奉に対する反動からの宗教紛争、水・エネルギー・食料といった死活物資の争奪戦による地域紛争、貧困を逃れるための大規模な民族移動による民族紛争などが勃発する。これらすべてがごちゃ混ぜとなって混沌とした泥沼の紛争に突入する有様。

・超民主主義(未来の第三波):<市場民主主義>をベースとした利他愛にもとづく人類の新たな境地。利潤追求自体に大きな意味はなくなり、人類全員があたかも家族のように、他者の幸せが自分の幸せと感じられる世の中。現代のNGO活動はその先駆けとなるのであろうか。

調和重視企業:これまでの営利追求団体である企業とは異なり、企業活動の究極目的は利潤追求ではなく、社会の調和を目指す企業。この理念は既に大企業(サーカス型企業)が発行する「CSRレポート」の中で謳われている。

トランスヒューマン:愛他主義にもとづく世界史民。<超民主主義>における主人公であり、新たなる<クリエイター階級>となる人々。市場だけでなく、社会・芸術の分野でも活躍する。イメージとしては博愛に満ちたキリストや仏陀などの大宗教家。現代では慈善事業に莫大な資金を投じるビル・ゲイツ夫人。しかし現社会体制では「恒産なき者は恒心なし」というところか。

・ノマド、超ノマド、下層ノマド、バーチャル・ノマド:人類は一万年ほど前にメソポタミアの地で<定住民>となったが、21世紀に再びノマドとなる者が増える。ノマドを大別すると三種類あり、エリートビジネスマン・学者・芸術家・芸能人・スポーツマンなどの<超ノマド>、生き延びるために移動を強いられる<下層ノマド>、定住民でありながら超ノマドに憧れ、下層ノマドになることを恐れて、ヴァーチャルな世界に浸る<ヴァーチャル・ノマド>である。日本のオタクはヴァーチャル・ノマドに属する。2020年頃には、人だけでなく企業もノマドのような存在になる。

・ノマド・オブジェ:<ノマド>が愛する持ち運び可能なグッズ。歴史的にはお守りや本に始まり、ウォークマン、携帯電話、ノートパソコン、小型ビデオといったように、いつの時代でも大ヒット商品となっている。今後も様々なノマド・オブジェ・グッズが爆発的に売れることから、この市場を制する企業が躍進する。サングラス、旅行カバン、ノマド向け保険といったノマド関連商品にも流行の兆しあり。


巻末を一部引用しただけでこのボリューム。個人的には「トランスヒューマン」「調和重視企業」という単語に注目。




「トランスヒューマン」



・トランスヒューマンな人々とは、愛他主義者で21世紀の歴史や同時代の人々の運命に関心をもち、人道支援や他社に対する理解に熱心であり、次世代によりよい世界を残そうとする。彼らは<超ノマド>の利己主義や海賊の破壊欲に我慢ならない。彼らは定住民の美徳(用心深さ、歓待の精神、長期的展望)とノマドの美徳(頑固さ、記憶力、直感力)を実践していく心積もりができている。

・また、彼らは自分たちのことを世界市民であると同時に、複数の共同体のメンバーであると考える。彼らの国籍は、彼らが居住している国だけでなく、彼らがしゃべる言語によって決まる。

・市場において他者とはライバルである一方、トランスヒューマンにとって他者とは、自分自身の存在の証であり、孤独でないことを確認する手段である。他者により、トランスヒューマンは、語り、伝承し、善意や愛を示し、自己の限界を乗り越え、自分自身が必要とする以上に、また自分の信じる能力以上に創造することができるのである。トランスヒューマンは、自分への愛から始まる他者への愛が、人類の存続条件であることを、他者を通じて理解する。


・トランスヒューマンは、全員が競争しあう市場経済と平行して愛他主義経済を作り出す。愛他主義敬愛とは、無料奉仕、お互いの寄付行為、公共サービス、公益からなる経済である。筆者はこれを調和重視と呼ぶが、調和重視が希少性の法則に縛られることはない。つまり知識を与えることは、知識を失うことではないのと同様である。



僕の周りは結構トランスヒューマンな人たちに溢れています。「調和重視が希少性の法則に縛られることはない」という点は興味深いです。ジャック・アタリ風に未来予測をすれば、トランスヒューマンにおいては、金銭ですら、人的ネットワークの中からいつでも引き出せるものとなっていくでしょう。トランスヒューマンは「貯金をしない人種」ともいえると思います。




「監視」



・「監視」は将来の重要な単語となる。テクノロジーにより、製品の履歴や人の動きがすべて分かる。これは、さらに遠い将来に軍事目的にも利用される。まずは、すべての公共の場所に超小型センサーやカメラが設置され、次に、企業のオフィスや休憩室などの私的空間にも設置される。最後に、オブジェ・ノマド自体にもこうした機能が搭載され、人々の往来が監視される。

・オブジェ・ノマドに記憶されている全てのデータは、各人の日常生活の記録を含め、専門の会社、民間警察、国家警察に販売される。健康状態や専門能力に関する個人データは、民間のデータベースにきちんと整理され、こうしたデータにもとづいて予防治療や予知検査の実施が可能となる。刑務所も次第に遠隔監視による自宅隔離処分となり、廃止される。

・隠し事は一切できなくなる。これまで社会の生活条件であった秘密厳守は、存在意義を失い、全員が全員のことを全て知ることになる。社会から秘密を知ることへの罪悪感は減り、寛容性は増す

・さまざまな臓器に取り付けられたマイクロプロセッサが、規範と隔離した臓器機能を監視する。超小型カメラ、バイオマーカー、ナノ・モーター、ナノチューブなどにより、各人は絶えず、または定期的に、自分自身の体のパラメーターを測定できるようになる。



こちらも面白い。まさにFacebook的なテクノロジーの行く末ですね。「オブジェ・ノマドに記憶されている全てのデータは、各人の日常生活の記録を含め、専門の会社、民間警察、国家警察に販売される」あたりは既に実現している話です。流石ジャック・アタリ。




ノマド関連の話より、個人的には「トランスヒューマン」というキーワードが刺さりました。僕自身も考え的にはトランスヒューマンに近いです。「ノマド」が注目されがち?な本ですが、ジャック・アタリはこの本を通じて「みんなトランスヒューマンになろうよ!」と呼びかけたかったのかなぁ、と一人感じました。

300ページを超える大著の部類に入る本ですが、ベストセラー本だけあって普通に面白いです。ぜひ。