これは凄まじい本。タイトルのインパクトを超える内容です。ぜひ多くの人に手に取ってもらいたいです。読書メモをご共有。





「セックス・ヘルパー」という仕事



・ホワイトハンズの提供しているサービスの一つ「射精介助」。「自力での射精行為が物理的に困難な男性身体障害者に対して、本人の性に関する尊厳と自立の保護、そして性機能の健康管理を目的として、介護用手袋を着用したスタッフの手を用いて、射精の介助を行うサービス」。

性=セックスは、食事や排泄、睡眠と並び、人が生きていくための、そして、次世代に命をつないでいくための最も基本的な欲求。

しかし、今の介護・福祉制度下では、性は、完全に「ケアの対象外」とみなされている。「障害者に性欲があるはずがない」「障害者が、妊娠・出産するはずがない」などの偏見や無知が前提になっている。

・過去に「障害者がソープランドに行くことに、賛成するべきか、反対するべきか」という論争があった。賛成派は「障害者にも性的欲求を満たす権利がある」と主張し、反対派は「買春は女性差別だ」「障害者も恋愛するべき」と主張し、議論は明快な結論を出せないまま終わった。

・しかし、これは典型的な「問題設定自体が間違っている問題」。真に考えるべきは「なぜ、異性とセックスするための選択肢は、恋愛とソープランドしかないのか?」「そのどちらにもコミットえできない人はどうすればいいのか?」ということ。恋愛でも売春宿でも解決できない問題を解決するための、第三の道を作る必要がある。


「性」という「アンタッチャブル」な領域に光を当て、問題を解決しようとする姿勢を一貫して感じることができます。




自己目的化する性風俗産業



・性風俗業界は、一見クレイジーに見えるが、見方を変えると、非常に完成度の高い、合理的かつ効率的なシステム。

・例えばホストクラブにおける「病み営」。精神的に落ち込んでいるふりをして、女性客の同情を喚起すること。営業テクニックでも何でもなく、リアルに病んでいる人も多い。さらに、病み営に引っかかる女性も、同じく心を病んでいる場合が多い。そうした女性はホストに貢ぎ、店側に大きな利益をもたらすが、高い確率で、長続きせずに「ツケ」を残して音信不通になる。そのツケはホストが肩代わりすることになり、さらに過酷な長時間労働を強いられる。

・性風俗産業の実態は、人間の性欲と金銭欲、心の病を利用して、客と従業員、さらには経営者やオーナーすらもカモにして、自らを存続させることだけを目的に拡大を続ける「自己目的化したシステム」にすぎない。ゆえに、関わった人全員が不幸になっていく。


著者の坂爪さんは、大学時代に性風俗産業の実地研究を行い、「機会仕掛けの歌舞伎町の女王」という論文を発表しています。




NPOというヴィークル



・創業にあたって新潟県警とは揉めに揉めた。

・そこから得られた教訓は「①性に関する新しいサービスを始める際には、絶対に、お上=行政にお伺いを立ててはいけない」。でたらめな法解釈をされ、勝手に規制される。

・「②性に関する公益性を判定する基準がない」。現状では「全ての性関連サービスは、青少年の健全な育成を妨げ、社会の善良な秩序を乱す可能性があるので、全面的に規制しなければならない」という悪法である風営法、そして事実上誰も守っていない売春防止法しか、性に関するサービスの公益性を判定する基準が存在しない。

・「テキトーに全面規制」したところで、本質的な問題は一切解決しない。では、性にまつわる問題は一体だれが解決すべき?言うまでもなく、答えは「私たち」。そもそも不幸の元凶は、行政には理解も解決もできない問題、本来であれば私たちの力によって解決するべき問題を、全て行政に丸投げしてしまっていることにあります。

NPOは前例のないことをやるための組織ですが、そのNPOに出す助成金の審査をするのは、ガチガチの前例至上主義の役所や、その下請けである公益法人である、という大いなる矛盾がある。

・現行のNPO制度の最大の矛盾点は「行政の無理解によって生じる社会問題の解決を、行政に代わって行うためのNPO法人設立に、行政の理解=認証が必要」という点。そのため、障害者の性のような「分かりにくく、耳障りもよくないけれども、本当に社会的な支援が必要な問題」は放置されつづけることになる。


この点も貴重な示唆。ちなみにホワイトハンズは「社会通念上、認められない」という理由で、NPO法人の認可を却下されています。信じがたいですね…。





批判について



・批判には外在的批判と内在的批判の2種類がある。内在的批判とは、相手の立場や目的を理解した上で、その実現をサポートするための建設的な批判をすること。外在的批判とは、相手の立場や目的に沿わない批判。簡単に言えば「ないものねだり」「揚げ足取り」。批判の99.9%は外在的批判。参考程度に聞き流すだけでOK。


・メディアへの露出が増えるに連れて「結局風俗じゃないか」「料金が高杉」「障害者を金儲けの道具にしている!」などなどの批判が寄せられた。こうした批判は、単純に批判者本人の知識と経験の欠如によって生じるものであり、簡単に論破できる。批判は活動の社会的認知度が向上していることを示すバロメーターです。批判を受けたら、落ち込むのではなく「おおっ、ようやく知名度が上がってきたんだ!」と祝杯をあげましょう。

・中には鬼のクビを取ったのごとく「ホワイトハンズは女性のケアをしていない!これは女性障害者への重大な差別だ!」としたり顔で騒ぎ立てる人もいる。しかし、「では女性障害者にはどのようなケアが必要だと、あなたは考えるのですか?障害の種別ごとに具体的に教えてください」と質問すると、誰も答えられない。

・確かに、ネット上での評価を気にする組織やメディアはある。ただ、誤解を恐れずにいえば、ネットの匿名掲示板上の評価だけで、会ったこともない相手を判断する組織やメディアは、例外なく「二流」です。無理に付き合う必要はありません。



相当坂爪さんは叩かれているんだろうなぁ…という苦労を察することができる部分。僕もなんやかんや言われることが多いので、非常に参考になります。「二流です」と言い切っちゃうあたりは痛快ですね。




というわけで、これは相当すごい本です。名著「セックスボランティア」が提示した課題に対して、一つの答えを出してくれている印象。社会問題を知るための本としても素晴らしいので、万人におすすめできる一冊です。

個人的には「童貞・処女卒業合宿」の話が非常に面白かったです。リアルタイムで追っていなかったのが残念。マイケル・サンデルではないですが、道徳的な観点からの議論を皮切りに、何が現状の課題で、どんな解決策があるのかを明確にできそうですね。まぁ、そういう議論はオンライン空間では難しいんですが…。