高知出張の取材シリーズ、まだ続きます。高知医療再生機構の鈴木裕介さんに続いて、そのまま「ひろめ市場」で、筆文字クリエイターのゆきさんを取材しました。


医学部中退、筆文字クリエイターに

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イケダ:ではゆきさんのお話もぜひ聞かせてください。ゆきさん、でいいんでしょうか?

ゆき:はい、名字を省いて「ゆき」でやっています。名字が嫌いなわけじゃないんですが、結婚したら、名字変わるじゃないですか。そのときにちゃんと検索してもらえるように、SEO対策でゆきにしています。離婚でもしたらそれこそ残念なので…(笑)

イケダ:すごい!ぼくも本名池田勇人ですが、SEO対策でカタカナにしているのでよくわかります。筆文字クリエイターというのはなんとも珍しい仕事ですが、そもそもなぜ、この仕事をやっているのでしょうか?「書道家」ではないのですか?

ゆき:これは私個人のこだわりなんですが、書道ではなく、筆文字が良くて…笑。書道ってとても年齢幅が広くて、60才くらいの方でも若手と言われるようなそんな世界だったりするんですよね。そんな中でずっと学ばせて頂いてて、まだまだ書道は勉強中で、いつか書道家って名乗る事が出来るほど成長出来れば嬉しいですが、60になっても70になっても勉強していたいな、というのがあるんです。

実は私、小学生の時、お習字嫌いだったんです。4才の頃から小学校6年生まで同じお習字教室に通っていたのですが、筆洗うのとか面倒くさかったんですよね。そんな私が書道をかっこいい!と思ったきっかけが高校1年生の時で。それまでは「お習字」しか知らなかった私が初めて「書道」の芸術作品の制作風景を目の当たりしたんです。

イケダ:なるほど。そこで衝撃を受けたんですね。

ゆき:大きい紙に大きな筆で書く大字書というものだったのですが、とにかくかっこよかったんです。腰も曲がってるような高齢の方が全身全霊でどでかい紙にででーんと字を書いてて。どこにそんな力があるんだろうって。その時にまず書道ってかっこいいなって思ったんです。正座して、背筋を伸ばして、筆を垂直に構えて…という堅苦しいイメージはそこにはまるでなく、どちらかというと体育会系でした。

そして、私の一番大好きな手島右卿先生という現代の書に多大な影響を与えた書道家がいるんですが、その方が「崩壊」という字をかかれてて。それにまつわるストーリーなんですが、その字を見た外国人の方が、「何か崩れゆくものを表現しているのか」と言ったそうなんです。当然日本語は読めない方です。すごくないですか?


(イケダ注:こちらの作品ですね。)

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文字の造形が意味を表す。元々、漢字って造形から作られたものが多いので当たり前なのかもしれないのですが、でもすごいですよね。字を見るだけで読めない人でも意味が分かってしまう。そんな力を持っているんだって、その時知って、それから大字書の虜なんです。いつか私の書いた作品を見て、外国人の方が意味を憶測でも当ててしまう。それが私の目指す書道なんです。

書道は書道で学び続け、筆文字は筆文字でデザインに特化したものとして、自分の書道スキルを使って文字をデザインしたい、と考えています。でもお仕事としてのロゴデザインなども依頼者さんがそのロゴに込めたい想いなどをなるだけたくさん詰め込めるようにと思って書かせて頂いているので、どちらも、字を見てなにか感じられるようなものを書いていたいというのは共通してますね。

イケダ:なるほどー、奥が深いです。医学部を中退、というあたりについては、どのようなストーリーがあるのでしょうか。


「自分と同じ病気の子どもを治してあげたい」

ゆき:実は私は医者になりたかったんです。幼い頃から病弱で、病院にかかりっきりで、病院には助けてくれる先生がいて、その人に憧れたのもあって、気付いたら女医を目指していました。

私には先天的な病気があって、入院・手術を幼い頃に経験していました。そこで自分と同じ病気の子どもを治してあげたい、というのもあって、医者になるために中学受験をしました。

それで受験をして、一応高知では一番の進学校に通って、高知大の医学部に入りました。大学一年の春に手術をしたところ、顔面神経麻痺を後遺症で患ってしまったんです。これで精神的にだいぶ落ち込んでしまって…。今も麻痺は残っています。

それまではダンスをしていて、ここに一緒に来た裕介さん、先輩ですね、とはダンスで知り合いました。ただ、この麻痺をきっかけにダンスをやめることになって、学校と自分の治療に専念していたら、一人で考える時間が増えて…自分が思っている以上に、医療が未完成だと感じたんですね。

イケダ:なるほど、医療が未完成。どういうことでしょうか?

ゆき:「医者が思う成功」と「患者が思う成功」は違う、ということですね。私も手術に際して後遺症があるかもしれないと言われていましたが、実際になってみると、やはり患者にしかわからない辛さだったり、微妙な変化がありました。その差に疑問を感じるようになってきて…。


ネットにハマってクリエイターの道に気付く

イケダ:クリエイティブな道というのは、どのようにして歩まれてきたのでしょうか。

ゆき:小学生の頃にマンガを書いていた時期があって、もともと絵とかデザインとかアートが好きだったんです。ただ、ずっとそういうものは「天才がやるものだ」と思っていましたし、進学校だったので、周りも本気でやっている人がいませんでした。

学校にはいなかったんですが、私インターネットが大好きで、中学生の頃からお絵描きチャットとかに入り浸っていたんです。

イケダ:うお、お絵描きチャットとかめちゃくちゃ懐かしい響き!ありましたね!

ゆき:「同盟」とかに入ったりして(笑)お互いの掲示板に毎日足跡に残す、なんて文化とか、とにかくネットが大好きだったんです。

そのあと受験でネットから離れたんですが、医学部に入学してからは、またネットに触れるようになりました。病院に通うために東京に出ていたんですが、そのときにネットで出会った人にバンバン会っていったら、いつのまにかアート系の友達が多くなってきて。

そんな出会いもあって、意外と普通の人でも、クリエイターという道って進めるんだ、と気付いたんです。そして、見よう見まねでイベントのフライヤーを作ったりと、少しずつ今の仕事につながる制作活動を始めたんです。

ただその頃には医学部に入ってしまってたので、とは言っても私は医者になる、って思っていたので、趣味で私もやってみようという程度でした。そんな時に麻痺になったんです。で、今までダンスをしていた時間が制作時間に代わり、これは楽しいぞ、と気付いて、そうなるとやっぱり大学の講義がしんどくなってきて…。

イケダ:あぁ、もうダメですね…(笑)

ゆき:ダメですよね。講義に来ているときに「なんでここにいるんだろう?」と思うようになってきて、それでも必死に通っていました。親にも言えなかったですし、暗黒の時期でした。

で、デザインの勉強をする傍らで、ネットで字を上げていました。これが思ったより評判が良かったんです。意外と喜んでもらえることが嬉しくて、字を書くようになっていきました。

イケダ:はじめから筆文字に力を入れていたわけではないんですね。

ゆき:書道はつづけていたんですが、「これは普通の人には面白さが理解されにくい暗くてまじめな趣味だ」と思い込んでいました。でも意外と喜んでもらえることがわかって、作品を出し始めたら、デザイナーの友人にすごく褒めてもらって「こういうの仕事にしないの?」と言われて、衝撃を受けてしまって。

「え、これ仕事になるの?本当に仕事になるならしてみたい!」ということで、少しずつ露出を増やして、グループ展にも出してみました。そうしたら、それがきっかけでお店の看板を書く仕事が決まったり。

そんな感じで後押ししてもらえる機会がちょいちょいあったこともあって、親には「学校を辞めてこっちの道に行きたくなった」と伝えました。けど、やっぱりまだ稼げているわけでもなかったのもあって、説得できませんでした。自分自身も今まで優等生で来ちゃったので、なかなかうまくいかなくて…。

イケダ:学費もかかっているわけですし、幼い頃からの夢でもあったわけですし、それは難しいですよね。

ゆき:そんな状態がつづいて何度か復学休学を繰り返して、かなりどうしようもない時期が続いてたんですね。でも転機がありまして。一昨年一人暮らしを始めたんです。ちょうど病気の関係で、半年間栃木の病院でリハビリをすることになった、というきっかけです。

その間はもう初めての自由だったので、とにかく人に会おうということで、「こういうことをしているんだけど、どう思いますか?」と自分の字を見て意見を求めに行きました。

そのなかで自信もでてきて、自分が医学部に入りたかったのを冷静に思い出して、「両方の道を目指す」ということ復学したんです。

ですが、結局通い直してみて、やはり両立はできないなと気付いて、学校を辞めさせていただきました。今はまだ売上が少ないのもあって、臑をかじらせていただいている状態ですね。

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「迷っている間って、来ないんでしょうね」

イケダ:なるほど、すごく興味深いストーリーです。辞めないとやっぱりだらだらしちゃいますよね。

ゆき:私は3歳くらいから医者を目指していたので、実際辞めたらぽっかりと穴が空くかと思ったけど、思いのほか、肩の荷が下りたのか、わかりやすく寝付きがよくなって(笑)

私は色々と迷ったのもあって、4〜5年ロスをしているんです。辞めてみたら、その期間で回らなかったことが、着々と回るようになっていきましたね。家入さんと会ってロゴを書いたのもそうですし、こうしてイケダさんと鈴木さんと3人で話しているのも、やっぱり辞めたからだと思うんです。迷っている間って、来ないんでしょうね。

イケダ:いいですね、名言です!迷っている間はホント、ダメですね。背水の陣になると、必死だから色々な人が勝手に応援してくれたりしますから。

ゆき:とにかくこの一年、自分が想像していた以上に、自分よりランクのだいぶ上の人々と会うことができています。

今までは、会うことができてもつながらなかったんですね。でも今は、作品を見せると面白がってくれて、一緒に何かをできる仲間に入れてもらうようになりました。


MindGeek
*雪書* 〜 MindGeek

イケダ:ホント、辞めてよかったと思います。これだけの作品を作れるわけですから。

ゆき:私はとにかく人が好きなんです。人と喋ったり、人の話を聞いたり、人の文章を読んだり。筆文字の仕事をすると、クライアントの業種のことを知ることができて面白いんですよね。

テレビ、出版、IT、食品…そういう人と話す機会があるのは楽しくて、業界は多岐にやりたいと思っています。筆文字って、人と会うためのツールみたいな感じなんです。

面白い人たちと一緒にいることが大切だと思っています。裕介さんたちが大学生のときに面白いことをしていて、背中を追わせていただいていたんです。この間は高知に家入さんが来て、面白そうだからと行ってみたらロゴを書くことになって。

バカ アホ ドジ マヌケの成功者

そういう意味では、面白い人と繋がれるならいくら安くても書きたいと思っていたりします。医療よりも人とつながりやすいので、そこは向いているのかもしれませんね。

イケダ:うまく羽ばたいていきそうですが、今後はどんな展開を考えているんでしょうか?

ゆき:実は、今後どういう風にしたら食えるのかがわかっていなくて…今は手探り状態で、とにかく仕事を頼まれたらそれをこなして、自分が面白いと思った人のものを優先的に書いていこう、という感じです。面白いものに目を向けていれば、多少苦しくても楽しいだろう、というのがありますね。

プライベートも仕事も、自分の好きな人やものに囲まれた人生になったら、なんて素晴らしいんだろうって思っているので、そういう意味でも、好きなもの、好きな人とは特に積極的にお仕事をしていきたいって思っています。面白いこと楽しいことをされてる方がいるとついついついていきたくなりますね!

イケダ:楽しいことをやる、というのは鈴木さんと通じるものがありますね!高知マインドなんでしょうかね。…というか、これだけ幅広く筆文字書けるなら、けっこうなんとでもなると思いますが…。今って料金はどんな感じなんですか?

ゆき:案件によって変わってくるんですが、公式サイトに載せているのが一応の料金ですね。でも、お金がないベンチャー企業だけど筆文字書いてほしい!という場合や個人の依頼など、予算のご相談も乗っています。それと、基本的に字であればなんでも書くスタンスで、どんなものも引き受けていますので、気軽にご連絡頂ければなと思いますね。

イケダ:「炎上上等」とか「dropout」のような激しい筆文字のイメージが強いですが、それ以外も普通に書けるんですねぇ。

PIECE lyric

鈴木:優しい字も好きで、うちは彼女に我が家の「子育て3か条」を書いてもらいましたよ。

Sankazyou

イケダ:おぉ、これは超素敵!いやー、筆文字で食っていく、応援しています。

ゆき:ありがとうございます、頑張ります!


作品ギャラリー

せっかくなので、個人的に素敵だ!と思った作品を転載させていただきます。こういう作品を求めている方は、ぜひお仕事を発注してみては。

「炒飯」

炒飯

「藝」

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「道」

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フォント「さらさら字」

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