さてさて、恒例の年末まとめです。ぼくは本をけっこう読む方なので、多分みなさんが知らない良著を知っているはず。どれも個人的には文句なしの作品なので、ぜひぜひご一読あれ。


為末大「諦める力」

諦める力~勝てないのは努力が足りないからじゃない[Kindle版]

為末 大 プレジデント社 2013-06-06
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by ヨメレバ

あんまり話題になっていない気がしますが、これホントに名著です。しかも500円セール。娘が大きくなったらまず読ませたい。別記事にて名言をまとめていますが、あらためてピックアップしておきます。

・今の僕にとって、何かを「やめる」ことは「選ぶ」こと、「決める」ことに近い。もっと若いころは、「やめる」ことは「諦める」こと、「逃げる」ことだった。そのように定義するとどうしても自分を責めてしまう。

・戦略とは、トレードオフである。つまり、諦めとセットで考えるべきものだ。だめなものはだめ、無理なものは無理。そう認めたうえで、自分の強い部分をどのように生かして勝つかということを見きわめる。

・僕も経験があるからよくわかるのだが、長くやりつづけることは賞賛されることはあっても、批判されることはまずない。周囲も「諦めないでがんばって」と応援してくれるので、それに勇気づけられてがんばってしまう。

・成長と成功は違う。この違いに気付かないふりをする罪は大きいと思う。

・「可能性は無限だ」。こういう考え方を完全に否定するつもりはないけれど、だめなものはだめ、というのもひとつの優しさである。自分は、どこまでいっても自分にしかなれないのである。それに気づくと、やがて自分に合うものが見えてくる。

為末大「諦める力 」:もっと早く読んでおきたかった…と思わせる一冊 : イケハヤ書店

あぁ、ビシバシきます。刺激を受けてたくさん記事を残しております。よろしければこちらもぜひ。

「頑張る」人は一流になれない
為末大さんが語る:本気でやったことがない人は、自分の限界がわからない
「あなたがこの道で一流になる可能性は、万馬券並だと思いますよ」と伝える優しさ


うさぎとマツコの往復書簡

うさぎとマツコの往復書簡[Kindle版]

中村 うさぎ,マツコ・デラックス 毎日新聞社 2012-07-23
売り上げランキング : 5014
by ヨメレバ

この本は衝撃でした。「マツコ・デラックスがすさまじい。反省として名言をまとめました。 」というまとめ記事は70,000PV近く閲覧され、うちのブログで300冊くらい売れました。今年いちばん売れた商品です。

・逃げるように帰った実家から母親に追い出され、ボロアパート暮らしのくせして、借金してまで女装している頃よ。上の階から女の喘ぎ声が聞こえてきた時、心の叫びというかなんと言うか、無意識の内、口に出してこう叫んでいたわ。「チンポもいらない、ゲイとしての幸せなんていらないから、だから神様、アタシにたらふくメシを喰わせて、日の目を見させて!」

・そう、アタシはよく判らない規格外の人だ。けれども、紛れもないゲイの女装癖だ。笑われてなんぼなことも、治外法権であることもよく解っている。それを最大限利用し糧を得るしか生きる道はないことも。アタシはまた、覚悟を決めてなかったんだよ……。

・こんな風に、雑誌で偉そうなことぬかしたり、テレビに出ればデブで女装なキワモノっぷりを存分に突かれてるんだから、今更どの口が言うって話なんだけど、アタシはいまだに母親と、もちろん父親とも、自分がどんな人間なのかを話したことがないわ。

マツコ・デラックスがすさまじい。反省として名言をまとめました。 : イケハヤ書店

創作活動を行っている方は必読。自分の覚悟のなさに打ちひしがれること請け合いです。いやー、ぼくなんかまだまだです…

ちなみに続編も電子化されています。今のところ全三作。

愚の骨頂 続・うさぎとマツコの往復書簡[Kindle版]

中村 うさぎ,マツコ・デラックス 毎日新聞社 2013-03-18
売り上げランキング : 8968
by ヨメレバ
喧嘩上等 うさぎとマツコの往復書簡3[Kindle版]

中村 うさぎ;マツコ・デラックス 毎日新聞社 2013-10-30
売り上げランキング : 4501
by ヨメレバ

岡南「天才と発達障害 映像思考のガウディと相貌失認のルイス・キャロル」

天才と発達障害 映像思考のガウディと相貌失認のルイス・キャロル (こころライブラリー)

岡 南 講談社 2010-10-09
売り上げランキング : 155668
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うお、この本と出会ったのは今年なんですね…と自分で驚いてしまいました。挑戦的なタイトルですが、自他を見つめ直す価値観が大きく揺さぶれられる作品です。ちなみにぼくは明らかに聴覚優位。人の顔を覚えられないのも、脳の認知が多少関係しているのでしょう…。

・私が主に思考に使っているのは、言語ではなく映像です。映像で思考しているのです。言語で思考している人のことを「言語思考」ということと同様、私はぜひ映像で思考している人のことを「映像思考」と呼びたいと考えています。

・映像思考の私が、文章を読むと文章の内容が、そのまま映像になることは先述しました。たとえばキャロルの「鏡の国のアリス」を読んだ時には、頭のなかの映像に花の形までは描けても、読み進むに連れて擬人化された「花」のおしゃべりは始まれど、色彩の表現がなく。いつまでたっても私の映像の中の花に彩色できず、ストレスが生じてしまいます。

・視覚優位とは反対に、聴覚優位の人は、空間認知が苦手ですが、踏襲性を必要とする学習や語学などは、聴覚からの記憶のよさが手伝いたいへん優れています。

・おそらくガウディの場合、他の書字の曖昧さや言語表現の少なさ、後述する全体優位性や色優位性などを考慮したとき、軽い読字障害、書字障害、のいずれかのタイプのディスレクシアであったであろうことが推察できるのです。

ダーウィンやガウディに軽い書字障害があったというのは、かなり驚く話です。なんだかよくわからないけど生きにくい、という方はぜひ。認知の偏りは学習とも大いに関係があるので、お子さんがいる方にも激しくオススメです。


「Chikirinの日記」の育て方

「Chikirinの日記」の育て方[Kindle版]

ちきりん ちきりんブックス 2013-11-26
売り上げランキング : 75
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こちらはブロガー的に「読んでよかった!」と強く感じた作品。同じ分野を戦う超・一流の人の手記は、かなり参考になります。こちらも読書メモから名言をピックアップ。

・ほとんどの本は出版後1年もたてば、書店では探すのも難しくなります。そんな著作を何冊ももっていることより、毎日何万人もが訪れてくれるサイトをもっているほうが、圧倒的に発信力は高いのです。

・「Chikirinの日記」では、"オワコン"とか"disる""炎上マーケ"や"ステマ"といった、日常生活では誰も使わないネット用語を、注釈なしに使用することはありません。

・私はよく、「ものすごく盛り上がったこのエントリがなかったら、今月のPVはどれくらいだったのか」ということを計算していました。それが、「とりたてて反応はしないけれど、継続的にブログを訪れ、ずっと読んでくれているリピーター読者」の数であり、ブログの影響力を支える基礎体力とでも言うべき数字だからです。

「Chikirinの日記」の育て方:月間200万PVブログは、いかにして生まれたか? : イケハヤ書店

ブロガーはほんっとに読んでおいた方がいいですよ、これ。ぼくはこの本を読んで、自分が取るべき戦略がだいぶクリアになりました。関連記事をいくつか残しているので、こちらもあわせてぜひ。

「ちきりん」の限界 : イケハヤ書店
ネット上で個人攻撃をすることの「機会損失」に気付かない残念な人たち : イケハヤ書店
「Chikirinの日記」の運営哲学から考える「個人を売るか、場を作るか」問題 : イケハヤ書店
ちきりんに学ぶ、PV至上主義に陥らないための考え方 : イケハヤ書店


佐々木紀彦「5年後、メディアは稼げるか」

5年後、メディアは稼げるか―Monetize or Die ?[Kindle版]

佐々木 紀彦 東洋経済新報社 2013-07-22
売り上げランキング : 1541
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今年読んだビジネス書のなかではピカイチ。オンラインメディアの運営に関わる人は絶対に!読んでおくべき。

・紙もネットも知り尽くし、コンテンツ作成に携わりながら、マネタイズ面でも先頭に立つ—このカテゴリーにあてはまるのはそんな人です。編集とビジネスの両面で新時代を切り開く「起業家ジャーナリスト」と言えます。

・「起業家ジャーナリスト」は、あるときは起業家として、あるときは企業の経営幹部として、新しい時代のコンテンツ作成、組織形態、報酬システム、ビジネスモデルなどを創り上げていきます。

佐々木紀彦さんが語る「5年後も稼げる」メディア人材の6タイプ : イケハヤ書店

ぼくは来年以降はこの「起業家ジャーナリスト」を目指したいと考えております。あぁ、5年後、食えるのかな…。


レイ・カーツワイル「シンギュラリティは近い」

シンギュラリティは近い―人類が生命を超越するとき[Kindle版]

レイ・カーツワイル NHK出版
売り上げランキング : 6144
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この本はあまり読まれてませんが、すごいですよ。もう価値観が全面的に揺さぶられます。超強烈なテクノロジーにまつわる「予言」がまとまっています。膨大な書物で、600ページにも及びます。以下、同様に読書メモからピックアップ。

・特異点が到来する頃には、人間とテクノロジーとの区別がなくなっている。人間が、今日機械と見なされているようなものになるからではなく、むしろ、機械の方が、人間のように、さらには人間を超えて進歩するからだ。

・彼(デ・グレイ)が言うように、「遺伝子工学で老化に打ち克つための核となる知識は出そろった。あとはそれらをひとまとめにするだけなのだ」。彼は「若返って元気になった」マウス、実験によって機能が若返り、長生きしてそれを証明できるマウス、は10年以内に実現すると信じており、そうなると世論に劇的な影響を及ぼすだろう、と述べている。

・2030年代の初頭、われわれはどうなっているのだろう。心臓、肺、赤血球、白血球、血小板、腎臓、甲状腺他全ての内分泌器官、腎臓、暴行、食堂下部、胃、小腸、大腸などはすでに取り除かれている。この時点で残っているのは、骨格、皮膚、生殖器、感覚器官、口と食道上部、そして脳だ。

(メモ)この本はヤバい:レイ・カーツワイル「シンギュラリティは近い」 : イケハヤ書店

まぁ、引用部分だけ読んでもあんまり意味がわからないと思われます。2,190円と電子版の割に値が張りますが、騙されたと思ってぜひ。ぶっ飛びすぎてて笑えますよ。


岡本茂樹「反省させると犯罪者になります」

反省させると犯罪者になります (新潮新書)

岡本 茂樹 新潮社 2013-05-17
売り上げランキング : 1639
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あぁ、この本も名著ですよ。

・両親が不仲であると、子どもは「自分が悪い子だから、お父さんとお母さんは仲が悪いんだ。いい子になろう」と考えます。子どもは常に親が気に入る態度を取ろうとして、大人の振る舞いをするのです。家が暗い雰囲気なので、無理して明るくしようとするかもしれません。

・子どもながらに「大人として」懸命の努力をするのです。その姿を見て「小さいのに偉いね」と褒めてしまうと、後々に必ず大きな問題が起きます。昨日までまじめだったのに、突然非行に走るケースも珍しくありません。

・「弱音を吐いてはいけない」と言われた者は、すぐに泣きごとを言う人を許せなくなります。「人に迷惑をかけないこと」が当たり前と思っている人は「人に迷惑をかけられる人(=人に甘えられる人)」を見ると、腹が立ってくるのです。

犯罪者の更生について説いた本ですが、子育てはもちろん、仕事上のコミュニケーション、自分自身との対話という点でも有意義な作品です。


「ポストモラトリアム時代の若者たち (社会的排除を超えて)」

ポストモラトリアム時代の若者たち (社会的排除を超えて)

村澤 和多里,山尾 貴則,村澤 真保呂 世界思想社 2012-10-20
売り上げランキング : 228375
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これもあんまり知られていない気がしますが、すばらしい作品でした。若者論を語りたいなら、ぜひとも読んでおくべき。

・彼(ジョック・ヤング)の指摘によると、かつて若者の犯罪は「少年の正常な成長過程で起こる」もの、あるいは「少数ではあるが深刻な適応障害に悩む少年」が引き起こしてしまうものとしてとらえられていた。端的に言って、若者の非行は「正常な行動」であるとされたのである。

・しかし時代が進むにつれて若者の反抗に対するまなざしは厳しさを増していき、青年期はもはやモラトリアムとしての機能を失ってしまった。若者の反抗は「あってはならないもの」となり、そこに理由が見いだされることはなくなってしまった。

・ある意味では、「ひきこもる」という行為は過剰に自己責任にとらわれた結果であるといってよい。それは誰にも頼らないで態勢を立て直そうとする試みであり、それ以上自尊心を失わないために自己管理に専念した結果であるといえる。

今夏に起きた冷蔵庫炎上事件なんかを見ていると、本当に、社会からモラトリアムが消失していることについて気づかされます。もっと若者が若者らしくバカでいられるような「余裕」があればいいのですが。


飲茶「哲学的な何か、あと科学とか」

哲学的な何か、あと科学とか[Kindle版]

飲茶 二見書房 2011-04-28
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こちらもマイナー作品。今年かなりハマった著者「飲茶」さんのなかから、特に選びたいのはこの一冊。量子力学の入門書としてひじょうにわかりやすいです。この種の本はたくさん出ているんですが、いちばん平易でエキサイティングなのは本書かと。

・結局、「2つのスリットを通ったのは何か」と問われれば、「電子が通ったのかもしれないという可能性だ」としか言えないのだ。むしろ、「電子は、絶対に一方のスリットしか通り抜けていない!だから一方のスリットだけを通り抜けたとして、この実験を考えるべきだ!」という方が、何の根拠もない。それどころか、そう考えてしまうと、干渉縞が発生するという事実を説明できない。

飲茶「哲学的な何か、あと科学とか」—量子力学の入門におすすめ : イケハヤ書店

量子力学の異様な世界観については、恥ずかしながらこの年で初めて知りました。「量子レベルでは、ぼくらの存在は揺らいでいる」という驚くべき論理は、世界の見え方が一変するくらいのインパクトがあります。

飲茶さんは「哲学入門」の2冊が定番です。どちらも入門書としてはすばらしいクオリティなので、「哲学ってよくわからない…」とモヤモヤしている人はこの機会にぜひ。

史上最強の哲学入門 (SUN MAGAZINE MOOK)

飲茶 マガジン・マガジン 2010-04-14
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史上最強の哲学入門 東洋の哲人たち (SUN MAGAZINE MOOK)

飲茶 マガジン・マガジン 2012-03-14
売り上げランキング : 9315
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池田晶子「14歳からの哲学」

14歳からの哲学 考えるための教科書

池田 晶子 トランスビュー 2003-03-20
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哲学といえば、お恥ずかしながらこの年まで未読だった作品。読書履歴を見てびっくりしたのですが、この本に出会ったのは今年の6月でした。池田晶子氏にはそこからゾッコンでのめり込み、すっかり染み込んでしまいました。文体レベルの影響もけっこう受けています。文句なしの名著。名言を引用しておきます。

・この校則は破るしかないと決めたなら、それだけの覚悟と責任でもって、破ればいい。なぜなら、それが、君が本当にしたいことだからだ。君が君の人生で本当にしたいことを、君の自由で決めたのだから、規則を破ることの報いとしての、「罰」を受けることにだって、決して悔いなどないはずだ。

・試しに、大人に、「なぜ生活しなければならないの」と訊いてごらん。きっと、「生きなければならないからだ」と答えるだろう。「じゃあ、なぜ生きなければならないの」と訊いてごらん。きっと、「そりゃ生きなければならないのは決まってるじゃないか」くらいしか応えられないはずだから。

・人は、自分を愛しているから嫉妬するんじゃなくて、愛していないから嫉妬するんだ。面白いもんだね。


青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」

宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論 (講談社現代新書)[Kindle版]

青木薫 講談社 2013-08-23
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量子力学入門、哲学入門ときたら、次は「宇宙論入門」です。宇宙論は膨大な領域がありますが、そのなかでも特に面白い「人間原理」についての作品です。すごいですよ、これも価値観がグワングワン揺さぶられます。

・人間原理のファイン・チューニングについては、これまで膨大な量の言葉が費やされてきた。しかし、はっきりしてきたことがひとつある。(中略)「基本的ないくつかの物理定数の値が、ほんの少しでも今の値とちがっていたなら、この宇宙はまるでちがうものになっていただろう」ということだ。

・インフレーション・モデルの多宇宙ヴィジョンによれば、われわれの宇宙は、無数にある泡宇宙のひとつにすぎない。

・宇宙がたくさんあるのなら、人間原理の意味は反転する—それは人間中心主義の目的論から、人間による観測選択効果になるのである。

ここだけだとわかりにくいですが、要するに「宇宙は文字通り、天文学的な数存在する」という話です。ぼくらの生きる宇宙は、途方もない宇宙全体からしたら、原子一個分にも満たないかもしれない…というのは、生きる意味がよくわからなくなりますね。


新井キヒロ「僕は髪の毛が少ない」

僕は髪の毛が少ない: 1 (コミックエッセイ)[Kindle版]

新井 キヒロ KADOKAWA / メディアファクトリー 2013-03-22
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あぁ、この本も紹介しなくてはならないでしょう。ぼくはぼちぼちスキンヘッドにしようと思っています。髪が薄くなってきたんですもの…。

「自然が敵ではなくなったのだ」とか天才的ですよね。


オリヴァー・サックス「音楽嗜好症 (ミュージコフィリア) ―脳神経科医と音楽に憑かれた人々」

音楽嗜好症(ミュージコフィリア)―脳神経科医と音楽に憑かれた人々

オリヴァー サックス 早川書房 2010-07
売り上げランキング : 18978
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今年はノンフィクションもたくさん読みました。なかでももっとも印象に残っているのは「音楽嗜好症」。「雷に打たれて音楽好きになった男」「音楽幻聴に苦しむ患者たち」といった、驚くような話が多数収録されています。

・雷に打たれてから三ヶ月目に、チコリア—かつてはおおらかで陽気で家族想いで、音楽にはほとんど関心がなかった男—は音楽に霊感を受け、憑かれ、ほかのことをする時間がほとんどなくなった。ひょっとすると、自分は特別な目的のために「救われた」のかもしれない、と彼は思い始めた。「私が生き延びることを許された唯一の理由は、音楽なのだと考えるようになりました」と話している。

・「とても音楽好きの自閉症児を診ているのですが、彼には典型的な言語障害があります。とくに長い時間をかけて言語を「処理」し、そのあと質問を数回繰り返されてはじめて、言葉による答えを発するのです。けれども、私が質問を歌って聞かせると、すぐに答えを歌で返せることに気づきました」

・音楽幻聴すべてに共通の特徴—最初は外から聞こえるように思えること、たえまがないこと、断片的で反復すること、不随意でわずらわしいこと—はあるが、細部は千差万別だ。

オリヴァー・サックス「音楽嗜好症 (ミュージコフィリア) ―脳神経科医と音楽に憑かれた人々」 : イケハヤ書店


高野秀行「謎の独立国家ソマリランド」

謎の独立国家ソマリランド

高野 秀行 本の雑誌社 2013-02-19
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これまで読んできたなかで見ても、文句なしのベスト。こういう作品があるから、読書はやめられないのです!

国際社会では全く国として認められていない。「単に武装勢力の一部が巨大化して国家のふりをしているだけ」という説もあるらしい。

不思議な国もあるものだ。建前上国家として認められているのに、国内の一部がぐちゃぐちゃというなら、イラクやアフガニスタンなど他にもたくさんあるが、その逆というのは聞いたことがない。ただ情報自体が極端に少ないので、全貌はよくわからない。

まさに謎の国。未知の国家。地上の「ラピュタ」なのだ。

文句なしにエキサイティングですよ。ページをめくる手が止まらず、夜更かししてしまった罪深い本です。


坂上香「ライファーズ 罪に向きあう」

ライファーズ 罪に向きあう

坂上 香 みすず書房 2012-08-21
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マイナーな作品ですが、特定クラスタでは伝説的な作品として名高いです。終身刑受刑者の更生を丹念に追った、日本人作家によるノンフィクションです。

・こうして米国は「監獄大国」となった。刑務所や拘置所といった矯正施設に収容されている受刑者数も、その人口比率も世界一だ。現在、拘禁者の数はおよそ230万人で、人口比では十万にあたりおよそ750人。日本では十万人あたり60人余りだから、米国はその12倍だ。

・受刑者だって笑う。吹き出すこともあれば、爆笑もする。苦笑いだって、泣き笑いだってする。ジョークだって言うし、からかいあったりもする。不謹慎だという人もいるだろう。

・実際には、刑罰は、屈辱感や恥の意識を増幅させ、罪の意識を薄めてしまう。彼の研究からわかったことは、刑罰こそが暴力を生み出す要因だということだ。

坂上香「ライファーズ 罪に向き合う」—終身刑受刑者の更生を描く : イケハヤ書店


日本では厳罰化が着々と進んでいます。こういう本をもっと多くの人に読んでもらいたいですね…。


木谷恭介「死にたい老人」

死にたい老人 (幻冬舎新書)[Kindle版]

木谷恭介 幻冬舎 2012-09-14
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ある意味究極のノンフィクション。著者みずから餓死に挑戦するという、とんでもない作品です。あえて多くは語りません、ぜひ。

・(断食5日目)断食をはじめて、まる4日しか経っていないのに、体力の衰えが想像した異常に激しい。こんなに早く、体力が衰えるとは…。

・(断食15日目)胃の疼痛が激しい。朝から医者へ行くか行かないか、迷っている。

・(断食23日目)薬を飲むと胃が痛い。医師に相談することもできない。といって、このままほうっておくわけにもいかない。意を決して、かかりつけの医院へ行く。医師は「本気でやってたのですか」と、血相を変えた。

木谷恭介「死にたい老人」—餓死を試みた老人のリアルな体験記 : イケハヤ書店


辯野義己「大便通」

大便通 知っているようで知らない大腸・便・腸内細菌 (幻冬舎新書)

辨野 義己 幻冬舎 2012-11-30
売り上げランキング : 57643
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あぁ、こういうマニアックな本、大好きなんです。著者の名前はなんと「べんのよしみ」さん!どんだけウンコによしみがあるんですか…。

・私は以前、下剤を使っても2週間に1度しか大便が出なかった女性たちに、ヨーグルトを毎日300グラムずつ食べさせたことがありました。薬を使ってもそれだけしか出ないのですから、かなりタチの悪い便秘です。しかし、ヨーグルトの効果はてきめんでした。(中略)ほとんどの女性が、およそ1週間程度で、大便が出るようになったのです。

辯野義己「大便通」—ぼくらは一生に8.8トンものウンコをする : イケハヤ書店

ぼくはこの本を読んでから、ヨーグルトを毎日食べるようにしました。すると、あら不思議、本当に便通がよくなりました。生活を変えてくれる作品です。


鈴木健「なめらかな社会とその敵」

なめらかな社会とその敵

鈴木 健 勁草書房 2013-01-28
売り上げランキング : 18885
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これも今年の本でしたね。すごい世界観で、すごい未来が描かれています。

・認知コストや対策コストの問題から、私たちは複雑な世界を複雑なまま観ることができず、国境や責任や自由意志を生み出してしまう。逆にいえば、認知能力や対策能力が脳や技術の進化によって上がるにしたがって、単純化の必要性は薄れ、少しずつ世界を複雑なまま扱うことができるようになってくる。人類の文明の歴史とは、いわばそうした複雑化の歴史である。

・自由とは、与えられた選択肢の中から選択することが可能であることでは決してなく、複雑なまま生きることが可能であることをいう。複雑なまま生きることができれば選択肢は自然に生成する。新たに選択肢を生み出すことができる稼働領域の複雑性の広さ、それが自由なのである。

(本)鈴木健「なめらかな社会とその敵」 : イケハヤ書店


ふひー、もっともっと紹介したいですが、流石に選びすぎるとキュレーションの意味がなくなるのでこんなところで。来年もすばらしい本に出会うのが楽しみです。いやー、本さえあれば生きていけるなぁ…。

あ、献本も大歓迎ですので、お気軽にご連絡ください!面白ければブログにてご紹介いたします。(nubonba@gmail.com)